NO161 謎の教団11~12

11

 5番山田、レフトポール際にホームラン性の大ファウル。
 ピッチャー梶、ちょうと苦笑い。
 ツウスリーの後アウトコースのボールになるカーブ、空振りで三振。
 阪神タイガースこの回も無得点。
 「どうしても一発が出ませんね、川原さん」
 「そうですね。こういう時監督は胃が痛むんですね。
 ああ、そういえば、この番組のスポンサーは上杉薬品でしたね」
 アナと二人で笑っている。

(私も胃腸薬でも飲もうかしら)
 5回の裏、ヤクルトの攻撃がはじまる。
(こんなに待っているのに連絡もしないで・・・嫌い!)
(そうよ、嫌いよ大嫌い)
(ヤクルトも嫌い、いつも下のぽうにいるなんていや)
 気持ちがだんだん拗ねていく。
(いいわよ、フン。もう会ってやんないから)

突然電話のベルがなった。

思わず飛びついて「あな・・・」
「えっ、あっ先輩でしょ」
「なんだ恂子か」
「何だはないでしょう先輩。せっかく心配して電話したのに」
「あぁ、ごめん、ごめん」
「今日は一言も口をきいてくれなかったわよ。
黙って早退したりして・・・風邪ですか?」
「うん、ちょっとね」
「熱があるとか聞いたけど」
「また、お向かいさんが言ったのね。まったく口だけは達者なんだから」
「でもなんだか気になったもんだから」
「心配ご無用。何でもないんだから。それより例の教団の取材はどうだった」
理佳は明るい声で言う。
今の自分の心の動揺を気取られたくはなかった。

「あまりパッとしなかったわ。
あっ、先輩野球みてるんでしょう。
音が聴こえるわ。
実はね、今度の土曜の東京ドーム、巨人、ヤクルトよ。
内野席が2枚手に入ったの、行かない?一緒に」
「うーん、たまには女同士の野球見物も悪くはないわね」
「じゃぁ行きましょうよ。明日は出てこられそう?」
「うん、大丈夫」
「じゃぁその時ね」
先輩後輩の間であっても、お互いに相手のことを考えながらの会話である。

彼からの電話では、なかったけれど、
それでも、だいぶ落ち込みがとれたような気がした。

 12

 ひときわ大きなどよめきが起こった。
 0対0のまま9回の裏、ヤクルトの攻撃。
 2アウトながらランナー3塁。
 「13打席12安打1四球という、
 驚異的代打率十割を誇るヤクルトの新人、大内の登場であります。
 川原さんどうでしょうか」
 「まったく信じられないことが起こるから、野球はおもしろいんですね」
 ピッチャー後藤、ランナーを横目で見ながらセットポジション。

理佳は思わず身を乗り出した。
ヤクルトファンの彼と共に、最近はもっぱら大内に熱をあげている。
投げた。
打った。
「やったー」
大きな声が出る。
ボールはピッチャーの頭を越えてセンター前に転々としている。
ヤクルトのサヨナラ勝ちであった。

彼がいれば、当然二人で乾杯していることだろう。
時計に眼がいく。8時50分、早い終了である。
そして今日もまた彼は来なかった。
(いいわ、怒らないで待ってあげる。でもきっと来てね)
それが何処であろうと、
まず、弱いチームのファンだと言っていた彼の顔が思い浮かんだ。

(謎の教団 13~14へ続く)

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