NO 164 第2章 出逢い1~3

第2章 出逢い

 1

豪華なシャンデリアがきらめく光を降らせて
シンセサイザーのものらしい、情感をくすぐるようなBGMが、
しぼったボリュームで流れている。
200人ほどの客の中を、
スケスケの白いブラウスに
きっちりとした黒のタイトスカートのコンパニオンたちが、
水を得た魚のように泳ぎ回っていた。

ここは、京王プラザホテル中宴会場。
月刊GOO主催、新年恒例の”予言の刻(とき)”の会場である。

 GOOは、6年前、親会社の朝夕新聞をバックに創刊された。
 内容としては、特に超能力、世の不思議な現象、神秘的なものの追求記事と、
 スポーツ、各種ゲームを中心とする、娯楽的なものの2本柱からなっていて、
 世相に合ったのか着実に読者を増やしている月刊誌である。

会場には何と言ってもジャーナリズム関係の客が多いが、
政財界をはじめ、各界の大物の姿も見える。
「俺はあんな球を見たことがないよ。
清藤は新しい魔球を開発したにちがいない」
「そうだ。スローで見るといったん外角下へいってから
内角上へねじれ上がっているんだ」
真ん中のテーブルを囲んで、
スポーツ関係の記者たちが陽気にまくし立てている。
「大内は再起不能だってことだぜ」
「そんなことはあるまい。あれだけ鋭い読みをもっている奴だからな」
「それがな、球団フロントの話では、骨折は完治したんだが、
何か精神的にまいっているって話だぜ」
「うん、なんでも母親に死なれて、がっくりしたままだと聞いたような気がするな」

 2

ステージの光が増して司会の言葉が聞こえてきた。
「それでは、時刻になりましたので、昨年この場で封印されました、
予言の開封をすることにいたしましょう。
今年の開封者は三田村慶子さんです、どうぞ!」
短いファンファーレの後、最近人気実力NO1とされる、
美人女優の三田村が紹介されると、会場から大きな拍手があこった。
黒いロングドレスに、白い華やかな笑顔がよく映えて、
ホール全体が明るくなったように見えた。
下手からアシスタントの女の子が、
透明なプラスチックの函をもって現れる。
三田村はそれを受け取り、2,3歩前に出て演壇の上に置いた。

「これは昨年の1月5日、5人の方々によって予言されたものでございます。
すでに、皆様方には1年間に何が起こったか、
お分かりになっていることではございますが、
予言は、それをどこまで、見通していることでしょうか」
司会の言葉と共に三田村が開放ボタンの封印を切った。
「時間錠解放時刻まで、あと30秒でございます」

BGMがフェードアウトしていく。場内は静まりかえり、客だけではなく、
コンパニオンや黒服のホテルマンまでが、身体を硬くして、固唾をのんでいる。
プラスチックの函がカチカチと秒をきざんでいる音が聴こえてくる。
照明が濃いブルーに変わり、中央の一点にピンの光が収束する。
三田村慶子の優雅な指先が透明な函の上部に付いているボタンの触れた。

カタッ!

函の両側の相対する二面が同時に開いた。
客たちは皆声にならない声を発して演壇を注目している。
三田村の白い指が函の中で、
どれにしようかと迷っているように、2,3度往復した。
強い光を受けたダイヤの指輪が、ハレーションをおこし、
やっと目的のものを見つけたとでもいうように、
一通のやや小型の封筒を取り出した。

 3

三田村は微笑して口もとを開いた。
「それではまず、Kさんのい予言です」
アシスタントが挟みを入れた封筒を、再び三田村に渡す。
彼女は封筒の中の紙片をつまみ出し、
目の高さまで持ち上げて客に示した。
光束の中心が彼女の手元に移動する。

一瞬、三田村慶子の笑顔が硬直した。
目を大きく開いたまま絶句している。
やがて気を取り直したように半歩前へ進み
「Kさんの予言です」
声にかすかな震えが残っている。
「一つ、東海地方に大地震あり」
場内に、ざわめきが起こった。
昨年10月、
御前崎を大きく隆起させる地震が起こったばかりであった。
今年で5回を数える”予言の刻”であったが、
これほで、的確に言い当てたものは、かってなかった。
司会が努めて冷静な声で静粛を呼びかける。

「二つ、この予言は必ず最初に読まれる」
「三つ、これ以外のものは取るに足らず」

三田村は次々と残り4通を読み上げた。
それらは、実際最初の予言にあったとおり、
何の具体的現象を示すものではなかった。

(出逢い4,5へ続く)

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