NO 173

兆候

会議室には超常現象担当の弥次喜多コンビ、大川と小山に、
カメラマンの良ちゃんが、すでに待機していた。

「最近自殺が多発しているな」
山崎が早速切り出した。
「統計によると日本における最近の自殺者は25000人前後となっているが、
この3月に入ってから、月平均からみて、急激に増えているんだ。
それが
どうも全国的レベルでの集団自殺によるものらしいという情報が入った」
「・・・・・・・」
「一般への影響を考慮して、マスコミ関係をはじめ、
政治的に箝口令がしかれているんだ。
内閣調査室で、極秘に調べとところによると、
集団自殺の場所は北海道の納沙布岬、青森県の尻屋崎、
大きくとんで、四国の足摺岬、九州の佐多岬だというんだ。
しかもどうやら自殺の場所は、南と北から東京に近づいてきているらしい」
山崎が言葉を切った。

「南と北からっつうと順番でもあるのかな」
「佐多岬、納沙布岬、足摺岬、尻屋崎の順らしい」
「何か自殺の周期でもあるんですか」
「確実とはいえないが、一週間前後だというんだ」
「んで、目撃者は」
大川が食い下がる。
「二人だ。これは足摺の場合だが、酔狂な夜釣りの帰りで、
午前1時を過ぎた頃だということだ」
「自殺だとすれば、止めるのが普通じゃねェのか」
良ちゃんが質問した。
「それがな、とても自殺などとは思えなかった。
何というか厳粛な儀式でもしているようで、
近づきがたいものを感じたというんだ」
「フーム。儀式ねェ」
「白い薄布を纏って一心に合掌し、
一列にならんで、岩の陰に消えていったらしい。
まさか、そんな真夜中に海へ飛び込むとは
思ってもみなかったというんだ」

3人はだいぶ興味をそそられたようであるが、
恂子はまだ、一度も口をはさんでいない。

「それでは集団自殺だという確証はないんじゃないですか」
わざと、なーんだという調子で小山が呟いた。
「ところが、室戸岬の沖合10キロほどのところで、
白い布に絡まった全裸の水死体が発見されたんだ」
「しかし・・・」
陰気な小山はめったに大きい声を出したことがない。
生きているのが億劫なような声しか出さない。
山崎はそんな小山の声を手で制して、
「いや、実は同様の水死体が、その前から何体も見つかっているんだ。
それに時を同じくするようにして、蒸発や行方不明が、
その地方を中心に多発している。
内閣調査室では、それらのデータ分析から、
何らかの意図をもった、集団自殺であると結論を下したんだ」
山崎は4人の顔を見渡しながら、やおら腕を組んだ。

「何か妙な予感がしますね」
「あやしの気配だ」
「つまり、面白いってことだぜ」
恂子をのぞく3人が顔をみあわせている。
「ところで、南北から東京に近づいて来るってのは何だろう」
「それに何故自殺の場所が海でなければならないんだ」
「そうだ。岬ばっかり、しかもみな太平洋側ってのはおかしいじゃねェか」
「いいぞ、その調子だ」
山崎がアジる。

「つまり、そのあたりを調べて見たいとは思わないか」
「みたい!」「聞きたい!」「調べたい!」
「よし、それじゃまず岬だ。それも太平洋側のやつだ」
「尻屋の南、足摺の北となると、
東京から南では、室戸岬、潮岬、御前崎そして伊豆の石廊崎ってとこかな」
「うん。北は金華山に犬吠埼ぐらいなもんだな」
「まあ、そんなとこだろう。だがまさか全部に出かけるわけにはいかない。
次は何処か予想をたててみてくれ」
山崎の問いに良ちゃんが吠えた。
「・・・・んなことは分かってるじゃねェか。
佐多岬、納沙布岬、足摺岬、尻屋崎と南と北から交互になってるんだろう。
次は南だ」
「ということは・・・・・」
「室戸岬!」
みんなが異口同音に叫んだ。

「よし、じゃあ日時についてはどうだ」
山崎がたたみこむ。
「たしか1週間前後の周期だといったな」
「ウム、しかし確認されているのは足摺の3月15日だけだ」
「つまり、尻屋崎が3月22日プラスマイナス1日として、
3月21日から23日となるわけですね」
「んじゃあ次は3月28日から30日だな」

「でも本当にその順序でいいのかしら」
恂子が初めて口を開いた。
「それは絶対確実とはいえない。だから面白いんだよ。
どうだ、その日室戸に賭けてみるか」
「28日といえば明日ですよ。かなり差し迫っていますね。
ところで”これ”はどうなんです」
小山が親指を立てて見せる。
「編集長は先刻承知だ。そればかりではないぞ。
この事件は例の教団と無関係ではあり得ない・・・といっていた」

恂子は会議室での話が始まった時からそんな気がしていた。
無意識のうちに聞き役にまわっていた。

「どうやら動き出したようですね」
「そういうことか。きっと何かあるな。尻尾の先をつかんでやるぜ」
「よし、じゃあ室戸にはお前たち3人で飛んでくれ。
恂子はは残って連絡と資料調べだ」
山崎が宣言して立ち上がった。
「徹マンなんかすんなよ」
山崎に肩を叩かれて、良ちゃんがニヤリと不適な笑いを見せた。
弥次喜多コンビは、お天気祭りでもやろうかと言って部屋を出て行く。

恂子はは自分の席にもどったが、落ち着かない。
岡田は天の羽衣教団の何を知っているのだろう。
教団と集団自殺とは、いったいどんな関係があるのだろう。
未知のものへの取材に挑戦する気持ちの高ぶりよりも、
不安のほうが勝っているようだ。
阿井舜真の姿が思い浮かんだ。
自然に手がペンダントにいく。

「恂子、近鉄へ行くよ!」
いつの間に帰って来たのか、隣の席から林理佳が明るい声で誘った。

(兆候9~10へ続く)

カテゴリー: 定期更新   パーマリンク

コメントは受け付けていません。