兆候
18
ドアが開いて山崎が入ってきた。
「あれ、デスク、どうしたんですか」
「お前らね、コレがね」と山崎が親指を立てる。
「タダでコーヒーチケットを切るとでも思ってんのか。
会議室がふさがってるんで、ここで、やれとよ」
「やっぱりネェ。そんなことだろうと思ったよ」
みんは明るく笑う。
山崎は席に着くなり、
時間がもったいないとばかりに、しゃべりだした。
「さて室戸は飛ばされたが、
定期的に集団自殺が行われているということが確実になった。
ボスの所に入った情報によると、今回は20人を越える人数だそうだ。
まず、これを見てくれ」
山崎は、ポケトから取り出した封筒を卓上に置いた。
一拍おいて小山が手を出し、中から2枚の写真を取り出す。
1枚は、ぼんやりとだが、白布を纏った何人かが、
岩の上に立っている姿が映っている。
もう1枚は一人のアップで、顔の表情まではっきり分かる。
穏やかな表情であった。
いや、むしろ恍惚としている。
とてもこれから自殺する者の顔ではない。
恂子は廻ってきたアップの写真を一目見るなり言った。
「神の御許にまいりますって顔だわ」
「そう、それだよ、
これは彼らにとって自殺ではなく、至福の世界への出発なんだ」
「そうか、見えてきたぜ。やはり例の教団が関係しているな」
「しかし、信者がみな自殺するのはおかしいぜ」
「特定の奴らが自殺するんじゃネェのか。つまり、神に召されてよ」
「ウム、これは教団に誰か先導する奴がいますね」
いつものブレーンストーミングが続く。
デスクの山崎は、運ばれてきたコーヒーをブラックですすっていたが、
いいかげん、4人に吐かせたあとで、徐に口を開いた。
19
「ボスの情報によると、当日の1週間ほど前から、
南紀地方を”アキヤマ”という男が徘徊していて、
何か関係がありそうだが、当日、現地には現れていない」
「んで、自殺者の身元は?」
「現段階ではまだ分からない」
「鋭意捜索中ってやつだな」
「まあ、今回は人数も多いし、
家族とか、関係者から、何らかの反応があるだろう。
ところで、今後のことだが、
知っての通り海底火山の噴火で、手が足りないんで、
当分は、このスタッフでいくことになるが・・・」
「あたしゃ、依存はないよ」
大川が言うのに、みんながうなずいた。
「それより次はどこの岬かを話し合っていたんですよ」
小山が先をうながした。
「うん、北は金華山と犬吠埼、
南は御前崎、石廊崎あたりだろうってことになったところだぜ」
良ちゃんが付け加える。
「ということは、金華山、御前崎、犬吠埼、石廊崎の順になるな」
「おい、ちょっと待てよ。そんなに簡単に決めていいのか」
室戸でこりたらしい良ちゃんが続けた。
「いやね。北が納沙布、尻屋、金華山、犬吠埼で、
南が佐多岬、足摺岬、潮岬、御前崎、石廊崎ってことになると、
4対5になるからさ」
「なるほど、室戸が飛ばされたのは、そのあたりの理由かもしれないな」
「4対4になるとしたら南はどこを飛ばすかだが・・・」
結局結論はでずに、その問題はまだ時間があるので、
保留することにして、ともかく次は金華山だろうということになった。
「やろうじゃないの。今度こそ特ダネをいただきだぜ」
良ちゃんが吠えた。
(兆候、最終章20~21へ続く)