NO178

兆候

18

ドアが開いて山崎が入ってきた。
「あれ、デスク、どうしたんですか」
「お前らね、コレがね」と山崎が親指を立てる。
「タダでコーヒーチケットを切るとでも思ってんのか。
会議室がふさがってるんで、ここで、やれとよ」
「やっぱりネェ。そんなことだろうと思ったよ」
みんは明るく笑う。

山崎は席に着くなり、
時間がもったいないとばかりに、しゃべりだした。

「さて室戸は飛ばされたが、
定期的に集団自殺が行われているということが確実になった。
ボスの所に入った情報によると、今回は20人を越える人数だそうだ。
まず、これを見てくれ」
山崎は、ポケトから取り出した封筒を卓上に置いた。
一拍おいて小山が手を出し、中から2枚の写真を取り出す。

1枚は、ぼんやりとだが、白布を纏った何人かが、
岩の上に立っている姿が映っている。
もう1枚は一人のアップで、顔の表情まではっきり分かる。
穏やかな表情であった。
いや、むしろ恍惚としている。
とてもこれから自殺する者の顔ではない。

恂子は廻ってきたアップの写真を一目見るなり言った。
「神の御許にまいりますって顔だわ」
「そう、それだよ、
これは彼らにとって自殺ではなく、至福の世界への出発なんだ」
「そうか、見えてきたぜ。やはり例の教団が関係しているな」
「しかし、信者がみな自殺するのはおかしいぜ」
「特定の奴らが自殺するんじゃネェのか。つまり、神に召されてよ」
「ウム、これは教団に誰か先導する奴がいますね」
いつものブレーンストーミングが続く。
デスクの山崎は、運ばれてきたコーヒーをブラックですすっていたが、
いいかげん、4人に吐かせたあとで、徐に口を開いた。

19

「ボスの情報によると、当日の1週間ほど前から、
南紀地方を”アキヤマ”という男が徘徊していて、
何か関係がありそうだが、当日、現地には現れていない」
「んで、自殺者の身元は?」
「現段階ではまだ分からない」
「鋭意捜索中ってやつだな」
「まあ、今回は人数も多いし、
家族とか、関係者から、何らかの反応があるだろう。
ところで、今後のことだが、
知っての通り海底火山の噴火で、手が足りないんで、
当分は、このスタッフでいくことになるが・・・」
「あたしゃ、依存はないよ」
大川が言うのに、みんながうなずいた。

「それより次はどこの岬かを話し合っていたんですよ」
小山が先をうながした。
「うん、北は金華山と犬吠埼、
南は御前崎、石廊崎あたりだろうってことになったところだぜ」
良ちゃんが付け加える。
「ということは、金華山、御前崎、犬吠埼、石廊崎の順になるな」
「おい、ちょっと待てよ。そんなに簡単に決めていいのか」
室戸でこりたらしい良ちゃんが続けた。
「いやね。北が納沙布、尻屋、金華山、犬吠埼で、
南が佐多岬、足摺岬、潮岬、御前崎、石廊崎ってことになると、
4対5になるからさ」
「なるほど、室戸が飛ばされたのは、そのあたりの理由かもしれないな」
「4対4になるとしたら南はどこを飛ばすかだが・・・」
結局結論はでずに、その問題はまだ時間があるので、
保留することにして、ともかく次は金華山だろうということになった。

「やろうじゃないの。今度こそ特ダネをいただきだぜ」
良ちゃんが吠えた。

(兆候、最終章20~21へ続く)

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