序破急計画
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今日の編集部は朝から騒々しい。
「参加者が200人を超えるとは、驚いたな」
「やはり豪華客船の上ってのが効いたのさ」
「北海道から沖縄までだぜ。世の中には暇な奴もいるもんだな」
「バッカヤロウ。お前ら誰のおかげでオマンマ食わしてもらってんだよ」
スポーツ娯楽担当デスクの齋藤が怒鳴る。
(そうか、今日は雀聖戦の1次予選があるんだっけ)
自分が好きでやっている仕事くらいよいものはない。
満たされながら、収入になり、ストレスもたまらない。
槙原恂子は、憧れてこの世界に入り、
たくさんの人たちに出会い、いろんな経験ができて幸せだと思う。
(理佳はどうしているかしら)
結婚式の案内状が来るのを心待ちにしていたのに、
その後、林理佳からは、何の音沙汰もない。
今、恂子は理佳がいた席に座っている。
前の自分の席がさびしそうに見える。
(7月には新人が来るっていってたけど・・・)
恂子は5月から引き続き、エルニーニョを担当していた。
T大を辞めて六星海洋気象研究所にいる曲立彦とは、
その後も連絡を取りながら協力してもらっている。
5月は、エルニーニョの説明とその不思議性についてふれていたが、
6月は、実際にその影響とみられる,様々な異常気象が起こっていて、
誌面も倍増してもらっていた。
4
ヨーロッパでは、低温の長雨が続き、
特にスイスでは、現在15日間、雨の日が続いている。
一方アメリカでは、6月に入って熱波が襲い、
テキサスなどの中央部では、38度以上の高温の日が続いていて、
熱射病などの死者も出はじめている。
日本では大規模な黒潮の蛇行が始まり、
5月、6月と低温の日々が続いていた。
(フーン、とうとう来た。予言のとおりだわ)
せっせと鉛筆を動かしながら、
恂子は何故か、
予言が当たることを望んでいるかのような錯覚に陥っていた。
世界的に発生していた集団自殺は、どうやらおさまりつつあるようだが、
年少者を中心とした誘拐、行方不明は、依然として続いていた。
5月に入ってから、なりをひそめていた海底火山が
再びあちこちで噴火をはじめ、
くわえて環太平洋火山帯に沿うようにして起こっていた、
小型の群発地震が、人々の心を逆なでしていた。
異常現象担当は取材に忙しく、
連絡係の恂子をのぞいて、全員が出払っている。
(でも、編集長はきっとモカにいるわね)
ふと思った恂子は、理佳がいないので、顔を見合わせる事も出来ず、
一人、マスコット人形の鼻をつついた。
(序破急計画5~7へ続く)