NO190

序破急計画

今日の編集部は朝から騒々しい。
「参加者が200人を超えるとは、驚いたな」
「やはり豪華客船の上ってのが効いたのさ」
「北海道から沖縄までだぜ。世の中には暇な奴もいるもんだな」
「バッカヤロウ。お前ら誰のおかげでオマンマ食わしてもらってんだよ」
スポーツ娯楽担当デスクの齋藤が怒鳴る。

(そうか、今日は雀聖戦の1次予選があるんだっけ)

自分が好きでやっている仕事くらいよいものはない。
満たされながら、収入になり、ストレスもたまらない。
槙原恂子は、憧れてこの世界に入り、
たくさんの人たちに出会い、いろんな経験ができて幸せだと思う。

(理佳はどうしているかしら)
結婚式の案内状が来るのを心待ちにしていたのに、
その後、林理佳からは、何の音沙汰もない。
今、恂子は理佳がいた席に座っている。
前の自分の席がさびしそうに見える。

(7月には新人が来るっていってたけど・・・)

恂子は5月から引き続き、エルニーニョを担当していた。
T大を辞めて六星海洋気象研究所にいる曲立彦とは、
その後も連絡を取りながら協力してもらっている。
5月は、エルニーニョの説明とその不思議性についてふれていたが、
6月は、実際にその影響とみられる,様々な異常気象が起こっていて、
誌面も倍増してもらっていた。

ヨーロッパでは、低温の長雨が続き、
特にスイスでは、現在15日間、雨の日が続いている。
一方アメリカでは、6月に入って熱波が襲い、
テキサスなどの中央部では、38度以上の高温の日が続いていて、
熱射病などの死者も出はじめている。
日本では大規模な黒潮の蛇行が始まり、
5月、6月と低温の日々が続いていた。

(フーン、とうとう来た。予言のとおりだわ)

せっせと鉛筆を動かしながら、
恂子は何故か、
予言が当たることを望んでいるかのような錯覚に陥っていた。

世界的に発生していた集団自殺は、どうやらおさまりつつあるようだが、
年少者を中心とした誘拐、行方不明は、依然として続いていた。

5月に入ってから、なりをひそめていた海底火山が
再びあちこちで噴火をはじめ、
くわえて環太平洋火山帯に沿うようにして起こっていた、
小型の群発地震が、人々の心を逆なでしていた。
異常現象担当は取材に忙しく、
連絡係の恂子をのぞいて、全員が出払っている。

(でも、編集長はきっとモカにいるわね)
ふと思った恂子は、理佳がいないので、顔を見合わせる事も出来ず、
一人、マスコット人形の鼻をつついた。

(序破急計画5~7へ続く)

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