NO193

縮小_陸奥新報5月22日
第20回記念未来コンサートの批評が紙上に載りました。
朝山先生ありがとうございました。
(写真など詳細は、上部主催イベントのボタンをクリックするとご覧になれます)。


序破急計画

10

「震源地は伊豆半島沖20キロ、震源の深さは30キロ、
マグニチュードは6.9であります」
室内の無事なテレビが言っている。

「特に異常はないようだな」
山崎が全体を眺めて言った。
「へぇ震度5だってよ。
くわばら、くわばら、あたしゃ低血圧がぶっ飛んだよ」
「とたんに腹が減ったと言いたいんでしょう」
「アタリー」
大川と小山の弥次喜多コンビがやりあっている。
「バッカヤロウ。取材だ取材、早く行かねぇか」
山崎が怒鳴る。

(こんな時こそ、みんながしっかりしなくちゃいけないのね)
恂子は、肩に取材バッグをせりあげ、
いつも持ち歩く小型カメラを片手に、美雪に声をかけた。
「初陣だわよ!」
美雪ははじかれたように立ち上がった。
新調らしいスーツ姿が、この場の雰囲気に妙にいたいたしい。
「星野君はいいんだよ」
山崎がやさしい目をした。
「それじゃぁ・・・」
恂子は、もうあらかたいなくなった連中を追いかけるように、
部屋を飛び出した。

マグニチュード6.9、震度5というわりに被害は予想より小さかった。
古い小型ビルの倒壊はあったものの、
ほとんどはひび割れや、ガラスの破損程度に留まり、
高層ビルに至っては、まったく被害がなかったと報道された。
「思いのほかだったね」
「関東大震災の時の、2倍以上は持ちこたえられるように
設計されているというのは、事実のようですね」
連絡のため残っていた二人が、テレビ画面を見ながら言った。

11

紫煙が立ち上がっている。モカのいつもの席である。
岡田遥之は向かい側の椅子に両足を上げ、
おもむろにポケットから細長い紙片を取り出した。
表面には6桁の数字が順にきちんと並んでいて、
彼は指でそれを追いながらうなずいている。
三枝由美がカウンターの中にいた。他に客はいない。
岡田の為にひいた専用の豆の香りが,
やわらかなセミクラシックの音楽にのって、二人の空間を満たしている。

「太平洋の各地で、ほとんど同時に地震が発生している」
「天の羽衣教団ですわね」
由美が小さな口を開く。
「環太平洋火山帯に沿って起こっているが、
プレートの沈み込みによるものではない」
「・・・と言いますと」
「まだ調査中だが、海底自体に何らかの異常が起こっているらしい」
岡田はやおら足を下ろし、カウンターに移ってきた。
「最大のものはチリ沖で、M7.7だ。かなり被害がでている」
「サンチャゴの教団ビルは?」
「無事だ」
「そうですわね」
由美は当然のことのようにうなずいている。
「まあ、チリ以外ではたいした被害ではないのだが、問題は・・・」
岡田は言葉を切り、新たなタバコに点火して言った。
「津波だ」
「ツネミ・・・」
「そうだ、現在、太平洋中央部は異常に水位が上がっていて、
洪水騒ぎが持ち上がっているほどだ。
それにチリ津波が押し寄せたとしたら、大被害になりかねない」
「たしか、前に三陸地方でそんなことがありましたわ」
「今回は22時間以内に来る。三陸と同程度の規模になろう。
もちろん政府はもう手を打っていると思うが・・・」

岡田は最後を独り言のように言って店の外に目を向ける。
人の動きがはげしい。
今の地震で地下街の店は、
かたづける作業が山ほどあるにちがいない。
それにしては、モカはやけに落ち着いている。
カウンターの後ろにある棚の品々にも一切異常はないようだ。

「教団は”序破急の舞”という計画を
実行に移していることがわかりました。ついさっきのことですわ」
「うむ、おそらく彼らの計画の
日本又は極東におけるコードネームだろう。
内容はまだ分からないのか」
「調査を開始しましたが、まだのようです」
「それと、前から依頼していた教団の階梯についてだ」
由美は岡田の視線が、
じっと自分の胸に注がれているのを意識していた。
やがて由美は俯き加減に目を伏せたまま答えた。
「ハイ・・・」
声がかすれていた。

(序破急計画12~14へ続く)

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