NO 195

序が級計画

15

2週間後。
三枝由美は自分の部屋を念入りにみがいて、
白い小型のテーブルに、ちょっとしたおつまみを並べた。
3枚の皿と、小どんぶりの位置をもう一度なおしてから、
鏡に自分の和服姿を写してみる。
午後11時。
チャイムもなく、扉が開いた。
「お帰りなさい」
由美はささやくように言って男の腕に捉えられる。
長い接吻の後、一つ吐息を漏らして男の背広を脱がせる。
着替えを終えた男がソファーに座る。
由美は冷蔵庫からビールをとりだし、
腰を斜めにして男の向かい側の椅子に座り込むと、
袖に手を添えて2人のグラスを満たした。
(・・・・・)
静かにグラスが合う。
男はグラスを一気にあけ、
目の前に用意されているタバコに手を伸ばす。
由美はまるで男の呼吸をはかったように、ライターに点火する。
男は大きく吸い込んだ煙を静かにはき出す。
二人の姿が一瞬紫煙に煙った。

「集団自殺をはじめ、若年層の誘拐や失踪など、一連の事件は、
天の羽衣教団が行っている”序の舞”であることがわかりました」
由美はその場の雰囲気にはほど遠い言葉を口にした。
「教団はすでに”破の舞”を実行中とのことです」
「おそらくこの海底火山の噴火や地震も、その一部だろう」
「この津波もでしょうか」
「ウム、」
「でも、こんなに被害が小さくてすんだのは、不思議ですわ」
「チリ津波を日本津波が迎え撃ったのだ。
無人の海中でエネルギーがぶつかり、空中へ放出されたのだ」
由美は男の空になったグラスにビールを注いだ。

16

「やはり何らかの意図があってのことにちがいない」
男は半分ほどを一息で飲み、小どんぶりの中の白いかたまりをつつく。
「序の舞は静かに淡々と進み、破の舞につながる。
そして急の舞で、文字どうり一気に舞い上がるのだ」
「急の舞については、まだ情報が入っておりません。
それから前から調査中であった、教団の階梯のことですが・・・」
由美が続ける。
「10階梯のうち第1階梯は関係者なら誰でもなれるもので、
常務の大沢もそうです。
でも2階梯以上は、ある力(パワー)がないと上がれないということです」
「・・・それで」
「2階梯から8階梯までは、
虹の色のように、
波長の長いものから順に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫となっていて、
紫は導師と呼ばれ、日本には4人しかいないということです」
「もちろん上にいくにしたがって力が大きくなるということだな」
「そうです。現在分かっているのは、
ビルそのものの構造が1階梯は18階まで、2階梯は27階、
3階梯は33階までしか上れないようになっているらしい、ということだけです」
長い間2人の話が続いていた。

(序破急計画17~18へ続く)

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