NO205

復活

そして3日後の早朝。
曲立彦は、シドニー港を出港する
”しんかい6500”の母船”よこすかⅡ”の甲板にいた。
黎明の霧の中に、白々とした街並みが徐々に遠ざかっていく。
その中程に一際高く、”天の羽衣教団”の異様なビルが見えていた。
曲は”いるかⅡ号”の船上で、
教団ビルが、海中からしぶきを上げて躍り出る幻想にとりつかれ、
未来に不安を覚えたものだった。
(そして四倉を失った・・・)

彼は今回の新たな出発にあたって、
再びこのビルと相対することになった偶然に、
さらに不吉な思いを募らせないわけにはいかなかった。
前回のように異常かどうかを調べに行くのではない。
はっきりと異常を示している海に潜ろうというのだ。
曲はプレートテクトニクスの専門家ではないが、
どう考えても理論のみによって解決出来るようなものではない。
もっと異質の尋常ではない何かが、隠されているような気がした。
(しかし、そんなことはどうでもいい。
いかに危険であれ、この海に潜ることは願ってもないことだ)
曲はすっかりもとに戻ってしまったマドロスパイプをくわえ、
大きく吸い込んでむせ、はげしく咳き込んで涙がでた。

「部長、朝食の準備ができました」
同行した研究員が呼びにきた。
食欲がない。
考えてみると、昨日の夜から何も口に入れていない。
空はどんよりと曇り、まるで朝が来ることを拒否するように、
海は輝きを失っていた。
(俺は病んでいるのか・・・)
曲は、やおら船室のほうへ歩き始めた。

10

朝、出勤前。
槙原恂子は鏡にむかっていた。
均整のとれた白い卵形の顔がいつもの潤いを失っていた。

「阿井さん・・・」
かすかに動いた唇から吐息が漏れる。
化粧を終え、迷ったあげく、決心して胸のペンダントに触れる。
目を閉じる。
額の中心から光が広がり、身体全体を包み込む。
眠れない夜を過ごした疲労が、ゆっくりと引いていった。
しかし、阿井は現れない。
光の中の扉を開こうとしても、意のままにならない。

(しかたがないわ、私が悪かったのだから)
恂子は不思議なほど素直な気持ちになっていた。
鏡に向かってほほえみかける。
「でも、私の気持ちは変わらないわ、阿井さん」
声に出して言ったみる。
悲しみを超えたほほえみが返ってってきた。

(復活11~12へ続く)

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