NO206

序破急計画

11

編集部に入ると、槙原恂子は一番に岡田遥之の机に行って、
「昨日はご心配かけまして」と挨拶した。
明るい声である。
みんなが心配して声をかけてくれるのが、
心を読むまでもなく肌で感じる。
「自分が素直になった時には、技術は必要ない」
と言っていた、阿井真舜の言葉を思い出す。
席に着くと星野美雪に「昨日はごめんね」と言った。
美雪は「もういいんですか」と言って立ち上がり、お茶を淹れてくる。
二人はほほえみあって、お茶をすする。
色が付いただけのお湯でさえ、今朝は美味しく感じる。

恂子はすぐに昨日の仕事の続きにかかった。
最近は編集部の出社が早い。
中央太平洋で異常な隆起が始まってからというもの、
世界中が注目しているこの事件に、いかに対応するかが、
朝夕新聞を含めての課題になっている。
当然のことながら、政府もこの問題を重要視して、
科学技術庁をはじめ、各省庁の協力のもとに、
観測体制づくりに乗り出した。
それを受けた海洋科学技術センターは、
今年度の日仏共同海洋機構調査の中に、特別なスタッフを組み、
フィージー沖で潜水予定の
”しんかい6500”の乗組員として参加させることになっていた。

「曲先生も潜るんですね」
美雪が参加スタッフの名簿を見ながら言った。
彼女の机の上には、もう書き上げた原稿が4,5枚乗っている。
「ごくろうさん、だいぶ早くから頑張っていたみたいね」
自然にねぎらいの言葉がでていた。

12

(どうやら大丈夫のようだな)
窓からさす、やわらかい光を背に、岡田遥之が紫煙を吹き出している。
岡田には、槙原恂子が天の羽衣教団導師、阿井真舜に出会って、
覚醒したことは、すでに分かっていた。
それは、彼女の体内にまどろんでいる、
遠い昔から伝わる血のなせるわざである。
(しかし何故・・・)
それがどうして、これから相対するであろう、教団の中枢人物、
阿井真舜によって覚醒しなければならなかったのであろうか。
たしかに岡田は恂子を教団の取材に差し向け、
彼女は何度か阿井に会っていることも知っていたが、
しかし、彼女はもともとこちら側に人間であり、
我々サイドの者たちとして覚醒する確率が100倍も高いのだ。
岡田は長くなったタバコの灰を落とし、もう一度吸ってから灰皿にもみ消した。

彼には編集部にいる人間の動きをはじめとして、
ある程度の未来さへ見通すことが出来た。
それに月刊誌を隠れ蓑にする、世界的組織”GOO”の情報網を通じて、
地球上の動きはほとんどチェックしている。
それゆえに・・・だからこそ。
恂子の動向が気になった。
それが何であるかは分からないが、
恂子のなかに、これからの人類の流れを変えるようなことが
隠されている気がした。

彼女は最近自分の能力に酔っているようだ。
だが、今日は違う。
彼女の中に、また変化が起こり、軌道修正しつつあるではないか。
岡田は机の上から足を下ろし、
イボイボの健康器をあるパターンによって踏んでいった。
教団の”破の舞”は太平洋の海底を操作し、隆起と沈降を起こさせている。
いったい何の為にそんなことをしなければならないのか・・・。
(彼らの故郷”ムー大陸”を、再び浮上させようとしているにちがいない)
岡田がここ半月以上にわたって一睡もせず、
超古代からの遺跡や文献を調べて解析した結果得た、第一の結論であった。

(序破急計画13~14へ続く)

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