NO 211

復活

24

扉を押して入ってきた岡田を見て、由美は胸が熱くなってくる。
彼が現れる数分前から、由美は彼の波動をとらえていたが、
その数分間が、何とも言えず待ち遠しい。
すでに火にかけておいたサイフォンに、特製のコーヒーを入れ、
カウンターの前を通っていく岡田に、はずんだ声をかける。
「いらっしゃいませ」
ここ半月以上、岡田は由美の部屋を訪れていなかった。
教団の”破の舞”について詳しく調べる必要があるのだと言っていた。
「コーヒーでしょうか」
コーヒーなのは分かっている。
他の客の手前訊いている。

岡田は頷きながら由美の頭の中に、
扉のそばのボックスにいる客について尋ねている。
その客は、これまで2,3度店に来ている。
週刊誌を読みながら、ひっそりとコーヒーを飲んで帰っていく客である。
その客に注意するようにと、岡田から由美に無言の指示があった。

前に逢った時、岡田は忙しくて寝る暇もないと言っていた。
それは彼の場合、文字道理眠っていないことだった。
由美の部屋で一夜を過ごした時でさえ、
添い寝してくれただけだったような気がする。
(いったいいつ何処で眠っているのかしら・・・)
由美は、岡田によって覚醒されてから、5年近くにになるのに、
彼の動向については、ほとんど分からない。
それをいっこうに不満に思わない自分も、不思議であった。

岡田専用の豆の香りが、あたりに広がる。
温めたカップに、心を込めたコーヒーを注ぐ由美は、
それだけで、幸せで、満たされていた。

25

「ママ、何を考えてんだ」
カウンターにいた二人の男のうち一人が上目遣いに由美を見た。
「別に何も・・・」
「いい人のことだとさ」
別の一人が言った。
「ホウ、好きな人がいるのか」
「ええ、たくさんいるわよ」
由美は微笑みながら
コーヒーとミルクを載せたトレイを岡田の席へ運んでいく。
「ママはいつだって冷たいんだから・・・帰ろうか」
カウンターの一人が、もう一人を促して立ち上がった。
扉側のボックスの客も後を追うように出て行く。
客が岡田だけになって、”モカ”には、音楽と香りの時間が流れる。

26

岡田がカウンターに移ってきた。
「結論がでたよ」
「えっ、なんですの」
「ムーの復活だ」
「ムーの・・・」
「天の羽衣教団は、ムーの血を受け継いだ、超能力者の集団だ。
彼らは同じ血を受け継ぐ者を集め、
12000年前に太平洋に没した国土を、復活させようとしているのだ」

岡田は胸のポケットに手を入れて由美を見る。
素早く察した由美は引き出しから紫色の小箱を差し出して渡し、
マッチを擦る。
しばらくの沈黙の後、岡田が話題を変えた。
「恂子が覚醒した。天の羽衣教団の導師、阿井真舜がそうさせたのだ」
「どうして彼女が教団の・・・」
「いや、恂子はまだ自分を、ほんとうには知らない。問題は阿井だ。
何故GOOの血を引く我々サイドの者と知っていて、覚醒させたのだろう」
「なぜでしょうか・・・」
「彼女は彼にとっても必要な存在なのだろうか・・・
そんなことを超えて、真の意味で愛し合っているのかもしれないが・・・」
「きっと、そうですわ」
由美は我が意を得たりというように、
しかし、控えめな声で言った。
(愛はすべてを超えるのですわ。私がそうだから・・・)
一瞬二人の目が合った。

27

岡田は由美の大きく見開いた瞳の中に、
恂子と阿井の、愛の秘密をみたような気がした。
恂子に対して、大切にしなければいけないと思っていた理由も、
朧気に分かりかけていた。
(二人が愛し合うことが、人類にとって必要なのかも知れないな)
岡田の思いに紫煙が揺れる。

どうやら予言の刻で語られてことは当たっているようだ。
ムーの血を引く者として、今世界中を混乱させている教団の計画と、
それを回避しようとしているGOOの仲間たちとが、対立しているのだった。

「羽衣をみたことがあるか」
岡田がまた話題を変えた。
「羽衣・・・ですか」
「そうだ」
「三保の松原の伝説なら・・・でもお能には行ったことがありませんわ」
「教団は羽衣を探しているのだ」
それがこの半月で得た、岡田の第二の結論であった。

(復活28~30へ続く)

 

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