NO 213

復活

31

岡田の電話で駆けつけてみると、
水道橋付近はパニック状態となっていた。
かなりの数のビルが倒壊し、
ひび割れて途中から折れ曲がっているものもある。
E電が脱線横転し、おびただしい車が、
まるで箒で掃かれたように、道路脇に寄せられていた。

上空では、東京ドームの屋根が
大型のアドバルーンか飛行船さながらに、
ちらつく雪のなかに舞い、
散乱したコンクリートや、ガラスの破片のあいだには、
目を覆う死体がころがっていた。

あちこちで燃えている火や煙の隙間からは、
かん高く叫びあう声が聞こえ、
救急隊が負傷者の応急手当をしたり、
死者を運び出したりして動き廻っている。
雪と周囲の混乱のため、救急車が、思うに任せず、
自衛隊のヘリコプターの出動が要請された
下界の騒ぎを睥睨してそそり立つ
天の羽衣教団ビルの中程の高さに、いくつかの機影が見える。

カメラマンの良ちゃんがすぐに行動を開始した。
弥次喜多コンビは被害情報のチェックに、
恂子と美雪は、目撃者を捜してインタビューに駆け回る。
目撃者によると、ズーンという低い音とともに
教団ビルが数秒間身震いするように振動しただけだという。
しかし、
その直後突然周りのビルが崩れ、E電が脱線したのである。

地震予知連絡会の委員に意見を求めたところ、
まれには、
直下型の地震で、局地的に強い揺れが発生すすることもあるが、
今回のように、数秒で停止することはなく、
おそらくこれは、きわめて大きな低周波の塊が
吹き抜けたのではないかという見解を示した。

午後9時、都知事を本部長とする、
災害対策本部の共同記者会見に臨んだ恂子たちは、
発表内容にしばし茫然とした。
現在確認されただけでも、
死者358人、重軽傷者4000人におよぶという。

太平洋側の、他の三つの教団ビル付近においても、
同様なことが起こったという情報についての質問に、
当局からの回答があった。
その情報は事実であり、
直ちに教団ビルの立ち入り捜査が行われたが、
9階までの人間は、まったく要領を得ず、
令状を持った捜査官が、18階まで上がったが、
目に触れた人間は一人もいなかった。
しかも18階から19階へ上る手段は、
階段やエレベーターはおろか、
通気口に至るまで、何一つ発見出来なかったというのである。

今の恂子には、最初の財団訪問の時に大沢が話していた、
教団の戒律のことが分かるような気がした。
(きっと、何かの超自然的能力がないと、
上へは、行けないのに違いないわ)

32

午前0時すぎ、恂子は社に戻って原稿をまとめ終え、
一人歌舞伎町へ向かっていた。
今はもう、店ゝのイルミネーションも復旧し、
繁華街にはクリスマスソングが流れている。
つい目と鼻の先で大事故があったことなど、
ほとんど感じさせない人の波である。

(アマランサスで逢いたい)
光の雪が降る中で、阿井は確かにそう言った。
(ゆるしてくれたのね・・・)
恂子は降りしきる現実の雪の中を、
ペンダントに手を触れながら、真っ直ぐ前を見て歩いていた。
どういうわけか周囲の人たちが、彼女に道を譲っている。
やがて彼女は、確信に満ちた足取りで右へ曲がり、
アマランサスへの階段を下りていった。

太陽のレリーフのついた扉が開く。
中は無人であった。
恂子は、正面奥の壁に近づいていく。
壁は待っていたように左右に分かれる。
阿井が立っていた。
恂子は、両足を揃えて立ち止まり、大きく目を見開くと、
今度は、彼に向かって走り寄った。
だが、ほんの4,5メートルの距離なのに届かない。
阿井のところにたどり着かないのだ。
それでも走った。
蝶の壁面が阿井の後方に迫ってくる。
さらに走った。
まだ届かない。
前方に見えていた蝶の壁画が左右にもある。
そして、天井にも床面にも一面に蝶が飛んでいる。
恂子は懸命に走った。
両目から涙があふれる。

ふいに、床面が消失した。
恂子は回転しながら、
蝶の舞う空間をどこまでも落下していった。

(復活33~34へ続く)

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