NO220

戦い

12

「ネオムー帝国は、ほんとうに世界の平和のために働いているようです」
編集部に帰った小山が報告する。
「ほう、出かける」時とは、ずいぶん違うじゃないか」
山崎が怪訝な顔をした。

「それは説明を受ける前だったからだす。
現在、日本人はアメリカをはじめとするジャパンバッシングに
泣いているではありませんか。
ネオムー帝国の平和主義は信じられる気がします」
「あたしゃ、帝国が気に入ったよ」
大川が付け加える。

(へんだわ・・・)
鉛筆を休めて、恂子は首をひねった。
彼ら2人は、集団自殺の取材の時から、
教団に対して、強い疑惑を持っていた。
それが、説明会の後の変わり様はどうだろう。
恂子は教団の秋山が、
共同会見の会場で、机を叩いて発生させた、
なまぬるい、よどんだ空気の感触を思い出して、
ゾクリと身をふるわせる。

編集長のデスクで、電話が鳴った。
「とうとう死者がでたか」
岡田の大きな声である。
ハワイとカリフォルニアの2州で、
ネオムー帝国を承認せよという、大規模なデモが続発していたのである。
そして西海岸の諸州が次々と追随いていくうちに、
また1ヶ月が過ぎていった。

13

曲立彦は、一人コンピュータ解析室の大スクリーンの前にいた。
画面には中央太平洋の映像が写っている。

こうしてみると、ネオムー帝国は、
その南部に、面積30万平方キロのほぼ円形なフィージー陸塊と、
15万平方キロのサツマイモのようなツアモツ陸塊を、
北部には9万平方キロのキゥリのようなマーシャル陸塊と、
7万平方キロの紐のようなワシントン陸塊があり、
それらの中央部にある、6万平方キロのフェニックス陸塊を加えた、
五ヶ所に大別され、その中間に、多数の島々が浮かんでいる。
周囲の海は深度200メートル以下を示す白い色で、
フェニックス陸塊に触覚をもち、
大きく翅をひろげた蝶の姿が、くっきりと浮かびあがっている。

曲はスクリーンを見ながら、昨日報道されたニュースを思い出していた。
太平洋の国々を中心に、
世界52ヶ国が、ネオムー帝国を承認したのに加えて、
六星グループ総師が、
企業として、帝国の独立を祝福したいという談話を発表し、
すでに同グループの傘下企業は、
ネオムー帝国から多量の発注を受けていることを明らかにしたのである。

 一連の隆起がネオムー帝国の力によるものだと分かった今、
 帝国に同調する六星グループは、彼らの仲間ではないか。

曲はこの研究所に対して、
なんとなく割り切れない感情をもってきた理由が、はっきりと分かった。
(所長のやろう・・・)
いい加減俺をおちょくりやがって、
「フィージーの海へ潜ってみるかね」だと・・・。
その海底がどうなっているか知っていたに、ちがいないのに・・・。
(ふざけやがって)

14

画面がアップになる。
フ;イージー陸塊に建築中の帝国中央政府ビルは、
外見が完成され、
他の六つのビル同様、その異様な黒い姿を聳え立たせている。
曲はパイプに火をつけ大きく吸い込んだ。

 (しかし、俺は何故こんなにイライラするのだろう)
 多国籍企業として、自分たちの成長のために
 新しい顧客をを開拓し、
 できれば独占的な取引をしたいのは当然ではないか。
 では何故・・・。
 (四倉のことか・・・)

曲はこの部屋が禁煙なのを思い出して火を消した。
とりとめなく続いていく思考は、
明滅したスクリーンの光によって中断された。

大きなネオムー帝国の旗をバックに、
前額部のはげ上がった小太りの男が写っている。
男は真面目な表情を作って、おもむろに口を開いた。
「ネオムー帝国は女王の名において、
ここに、”世界理想郷宣言”をするものである」

(戦い15~16へ続く)

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