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戦い

42

「だまされてはいけない。
帝国はすでに世界中の人間を300万人も殺害しているのだ」
突然アジア総大使館ビルの上空から大音声が鳴り響いた。
人々は叫びを中断されて、頭上を見上げる。
どんよりとした雲の下に、長大な男の姿が映し出された。
人影の長さは100メートル以上はあるだろう。
スカイダイビングのように、両腕を広げた姿を、群衆に向けていた。
テレビアイがズームする。
(編集長だわ・・・)
他の者には気づかない別の姿をしているが、恂子は一人納得した。
いや、モカの由美もまた、瞬間にしてそれが岡田と分かったにちがいない。
「だまされてはいけない。
すぐに帰って自分の仕事にもどるのです」
空中に浮かんだ長大な男の言葉とともに、群衆の中に亀裂が走った。
総大使館の秋山登は、自分の集団催眠が破れたことを知り、
さらに力を込めて「ネオムー、ネオムー」と叫ぶ。
しかし、一端覚めた群衆は潮が引くように、ビルから遠ざかっていく。

(GOOのメンバーだ)
ビルの60階にいた、NO4の思念が怒りに燃えた。
「あれが岡田ね」
NO3の女が、
先頃グリーンクラスの部屋まで交渉に来たと報告があった
男の名前を口にする。
声に敵対する者にはあり得ない情感がこもっていた。
(すぐに手を打ちます)
NO4が女の返事を待たずに姿を消した。

空中にいる長大な男の姿が、ゆがみはじめ、10秒ほど振動して消えた。
入れ替わるように、60階の紫色の霧の中に、男の姿がにじみ出た。
岡田である。
一瞬遅れて出現したNO4の瞳に、
入れるはずのない部屋に侵入した男の姿に目を見張っているNO3の
すさまじいばかりの妖艶な姿が、写ったであろうか。
岡田に触れられたNO4は無数の光の粒子となって分解した。
「すばらしいわ」
NO3の女は目の前で消滅したNO4のことなど、
まったく忘れてしまったかのようにささやいた。
同時に部屋全体が火柱を上げる。
岡田と女はいつの間にか噴火する火口の真上にいた。
火砕岩が次々と吹き上がる。
電荷をあびた粒子が放電し、
激しく白い稲妻となって、岡田の身体を貫通した。

43

・・・・・
(カムチャツカだな)
岡田の落ち着いた思念をを受信した NO3の心は硬直した。
油断していたとはいえ、
念動力では極東随一を誇るNO4を一瞬のうちに消滅させ、
今又彼女が発生させたイメージの実体化を無にしていまった男。
GOOのメンバー岡田遥之の力量に戦慄したのである。

「帝国は間違っている」
噴火する火山は消え、静寂を取り戻した室内に岡田の肉声が響いた。
「私たちは信じているのです」
「信ずることは自由だ。だが、それをすべての人に押しつけてはならない」
「正しいと信じたことを広めるのは正しいことです」
彼女も一歩も引かない。
凄絶な色気が発散した。
(しかたがあるまい・・・)
岡田の静かな嘆きの思いに、NO3の身体が呪縛された。
「ムゥ・・・・・」
だが、短く声を上げたのは岡田自身であった。
彼は自分の後ろから羽交い締めにしている不可視の部分からあがる、
白い煙と、霧の中に滲んでいく女の姿を同時に見ていた。
空間がきしんだ。
そこにはもう人影はない。
ただ周囲2メートルに発生したマイナス273度の極超低温のなかに、
紫水晶のように輝く霧の結晶が散っているのみであった。

戦い最終章、44~45へ続く)

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