NO 221

戦い

15

同じ頃、同じ画像をGOO編集部の恂子たちも見ていた。
いや、この時間に電源が入っている、
あらゆるテレビやラジオを通して同じ画像が伝達されていた。

「悪のない世界、苦しみや悲しみのない世界、
誰もが平等で、幸福な世界・・・」
テレビの男は続ける。
編集部内の面々は、石になったように目をスクリーンに釘付けにしていた。
「我がネオムー帝国は、全人類の幸福のために、
全世界の平和のために、ここに”世界理想郷宣言”をするものである。
志を同じくする者は、各地のネオムー総大使館に集結されたし。
我々みんなの手で理想の世界を築き上げようではないか・・・」

恂子はテレビの男の顔や体型に、かすかな記憶があった。
(誰だったかしら・・・)
阿井と大沢の他には、特に教団のなかで知った男はいないはずだが。
(いや・・・そうだわ)
あの男に違いない。
恂子が階段で転がりかけ、阿井に助けられた時に、一緒にいた男である。
1000円札を拾ってくれた男だ。
恂子は脳裏にスイッチがはいったかのように、次々と思い出していった。
(そうだわ、東京ドームで、
代打者の大内が骨折した時、観客をかき分けて
去って行った男、あれも彼だわ)
フィルムが逆回転するように、
恂子は大内の骨折の原因までも悟っていた。

「全アジアの国々は我々の宣言に賛同し、
同盟国として、世界平和のために協力されることを心から願っている」

編集部の面々は
一様に深い感銘を受けたような表情で、男の言葉に聞き入っている。
恂子の目が岡田のほうへいった。
彼はイボイボの健康器を踏みながら、
紫煙をたなびかせて顔を隠している。
テレビの音は聞こえているのだろうが、画面は見ていない。
しかし、恂子には、岡田は音さえも聴いていないように思われた。

16

そう、岡田は健康器をあるパターンによって踏んでいた。
微妙にツボが刺激され、
必要とするに十分な細胞だけが、徐々に目覚めていく。

岡田遥之はほとんど睡眠を必要としない人間であった。
1日に平均すれば、15、6分も眠るであろうか。
まったく眠らない日が何週間も続くこともあった。

この現象は大学に入学したころから始まった。
「君はGOOの血をひいているのだ」
眠れぬ日々に悩んでいた時、彼の耳元でささやいた男がいた。
満員電車の中である。
40歳くらいであろうか。
髭そり跡が青々とした四角い顔の男が、
岡田の耳に口を近づけて続けた。
「君は日本にただ一人の人間なのだ」
「そうさ、俺は俺、ただ一人に決まってるじゃないか」
岡田は大声でやりかえした。
周囲の乗客がびっくりして二人を見る。
だが、男はまったく動じた風もなく、
こんどは岡田の目をのぞき込んだ。
「君は眠れないんだろう。それはGOOの血によるものなのだよ」
小声なのに、周りの騒音の中でもはっきり聞こえた。
「今はまだ序幕にすぎない。
これからいろんな現象が起こるはずだ」
電車が止まった。
新宿である。
人の波が動き出した。
「何時でも相談にのるからね。連絡先はここだよ」
絶句している岡田のシャツのポケットに紙片をねじ込んで、
男はさっさと下りていった。
ドアが閉じる。
(俺が眠れないことを、どうして知っているんだろう)
岡田は自分も、ここで下りるはずなのを忘れていた。

最初は睡眠時間が少なくても体調が崩れないことに
喜びさへ感じていた。
だが、一日の睡眠が3時間から2時間になり、
1時間を割るようになると、さすがに気になり始めた。
不眠状態が2週間続いても、まったく眠くないのである。
これといった原因も思いつかないまま、
彼は、次第に夜をもてあましていった。
盛り場をうろつくようになり、不規則な生活が続いていた。
あの男に連絡を取るべきかどうか、3日悩んだ。
さらに1週間。
岡田は男の電話番号をまわしていた。

(戦い17~18へ続く) 

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NO220

戦い

12

「ネオムー帝国は、ほんとうに世界の平和のために働いているようです」
編集部に帰った小山が報告する。
「ほう、出かける」時とは、ずいぶん違うじゃないか」
山崎が怪訝な顔をした。

「それは説明を受ける前だったからだす。
現在、日本人はアメリカをはじめとするジャパンバッシングに
泣いているではありませんか。
ネオムー帝国の平和主義は信じられる気がします」
「あたしゃ、帝国が気に入ったよ」
大川が付け加える。

(へんだわ・・・)
鉛筆を休めて、恂子は首をひねった。
彼ら2人は、集団自殺の取材の時から、
教団に対して、強い疑惑を持っていた。
それが、説明会の後の変わり様はどうだろう。
恂子は教団の秋山が、
共同会見の会場で、机を叩いて発生させた、
なまぬるい、よどんだ空気の感触を思い出して、
ゾクリと身をふるわせる。

編集長のデスクで、電話が鳴った。
「とうとう死者がでたか」
岡田の大きな声である。
ハワイとカリフォルニアの2州で、
ネオムー帝国を承認せよという、大規模なデモが続発していたのである。
そして西海岸の諸州が次々と追随いていくうちに、
また1ヶ月が過ぎていった。

13

曲立彦は、一人コンピュータ解析室の大スクリーンの前にいた。
画面には中央太平洋の映像が写っている。

こうしてみると、ネオムー帝国は、
その南部に、面積30万平方キロのほぼ円形なフィージー陸塊と、
15万平方キロのサツマイモのようなツアモツ陸塊を、
北部には9万平方キロのキゥリのようなマーシャル陸塊と、
7万平方キロの紐のようなワシントン陸塊があり、
それらの中央部にある、6万平方キロのフェニックス陸塊を加えた、
五ヶ所に大別され、その中間に、多数の島々が浮かんでいる。
周囲の海は深度200メートル以下を示す白い色で、
フェニックス陸塊に触覚をもち、
大きく翅をひろげた蝶の姿が、くっきりと浮かびあがっている。

曲はスクリーンを見ながら、昨日報道されたニュースを思い出していた。
太平洋の国々を中心に、
世界52ヶ国が、ネオムー帝国を承認したのに加えて、
六星グループ総師が、
企業として、帝国の独立を祝福したいという談話を発表し、
すでに同グループの傘下企業は、
ネオムー帝国から多量の発注を受けていることを明らかにしたのである。

 一連の隆起がネオムー帝国の力によるものだと分かった今、
 帝国に同調する六星グループは、彼らの仲間ではないか。

曲はこの研究所に対して、
なんとなく割り切れない感情をもってきた理由が、はっきりと分かった。
(所長のやろう・・・)
いい加減俺をおちょくりやがって、
「フィージーの海へ潜ってみるかね」だと・・・。
その海底がどうなっているか知っていたに、ちがいないのに・・・。
(ふざけやがって)

14

画面がアップになる。
フ;イージー陸塊に建築中の帝国中央政府ビルは、
外見が完成され、
他の六つのビル同様、その異様な黒い姿を聳え立たせている。
曲はパイプに火をつけ大きく吸い込んだ。

 (しかし、俺は何故こんなにイライラするのだろう)
 多国籍企業として、自分たちの成長のために
 新しい顧客をを開拓し、
 できれば独占的な取引をしたいのは当然ではないか。
 では何故・・・。
 (四倉のことか・・・)

曲はこの部屋が禁煙なのを思い出して火を消した。
とりとめなく続いていく思考は、
明滅したスクリーンの光によって中断された。

大きなネオムー帝国の旗をバックに、
前額部のはげ上がった小太りの男が写っている。
男は真面目な表情を作って、おもむろに口を開いた。
「ネオムー帝国は女王の名において、
ここに、”世界理想郷宣言”をするものである」

(戦い15~16へ続く)

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NO 219

縮小_発足会
期待の胸が膨らみます。どうぞおいでください。

下記連載もどうぞ。

ムーの幻影
戦い

1月20日にはマレーシア、インドネシア、が、
21日にはタイ、モンゴル、エジプト、アルジェリアが、
22日になって、オーストラリア、スペイン、ポルトガルが、
それぞれ帝国の承認にまわるに至り、
日本もまた、何らかの形で、態度を表明せざるを得なくなった。
各派閥の微妙なバランスによって成立している現政権は、
アメリカの意図に沿い、ネオムー帝国非承認とする方向で閣議に臨んだ。
だが最大勢力である太田黒派の、
離党も辞せずと言う強硬な態度に意見がまとまらず、
結論は先送りとなった。
太田黒派は、この機を待っていたように各派閥に多数派工作をかけ、
同時に国民に対しても、
機会があるごとにネオムー帝国の偉大さを説いた。
世界平和のためには、彼らと同盟を結ぶべきだとアピールし始めたのである。

時を同じくするように、ネオムー帝国アジア大使館では、
独立以来初めての説明会が開かれた。
3階の会議室をびっしりうめた報道陣を前に、
日本におけるスポークスマンと称する、
秋山登が意図的とも思える冷静さで語っていた。

「・・・現在ネオムー帝国は中央政府ビルを建築中でありますが、
それが完成し次第、あらためて国策を打ち出すことになるでありましょう」
具体的にはどんなことかと、待ち構えていた質問がでる。
「詳しい内容はまだ発表する段階ではありませんが、
世界平和のための施策となるでしょう」
「しかし、あなた方は、自分たちの領土を得るために、
多数の生命を奪い、破壊行為で全世界に、
いちじるしい精神的、物質的損害を与えたではありませんか」
「そうだ、そんな連中が世界平和を語るなんて、ナンセンスだ」
「天の羽衣教団は、宗教団体であり、信仰の自由は認めるとしても、
国家として認めることはできないぞ」
「そうだ、そうだ」
一人の記者の発言から、場内は騒然となり、
質問というよりは、罵倒にちかい攻撃が始まった。
「あたしゃ、やっぱり認めないよ」
「認めませんよ」
大川と小山の弥次喜多コンビがヤジる。
もう取材記者を放棄した野次馬の集まりのような雰囲気である。

10

恂子は何故かさめていた。
世界中に160以上も独立国があるというのに、
何故こうなるのかしら。
たしかに大きな被害をだした国々では、
感情的になるのも無理はないが、
そんな中でもすでに独立を承認している国はたくさんある。
太平洋の島々の領有権が、いったい何だというのだ。
世界は今、真剣に取り組まなければならないことが山ほどある。
隣国と争っている余裕などないほど、差し迫っているではないか。
阿井と過ごしたほんの一時の間に、
宇宙的な空間と、10000年に及ぶ時間の中を、浮遊した恂子は、
それを実体験としてもっていた。
あれ以来
自分はなんだか周囲の人たちと遊離し始めているように感じる。

場内の怒号の中、
スポークスマンの秋山登が、右手を弾ませるように机を叩いた。
ポン!
突き抜けるような冴えた音がした。
秋山は立ち上がり、その右手を開いて高く上げた。
「皆さん、親愛なる皆さん。
私たち人間は常に偉大なる神によって導かれてきました。
しかし、いつの間にか、神の恩寵に狎れ、
感謝と祈りを忘れて、度重なる戦争を繰り返してきました」
突然変わった秋山の語調に、
場内は意表を突かれて、彼の開かれた指の先に視線を移している。
殺気立っていた記者たちは、
波が引くように次々と着席して、次第に穏やかな表情に返っていった。

11

(おかしいわ・・・)
恂子は隣の大川を見た。
彼はまるで黒潮と親潮の二杯のラーメンをたいらげた後のような、
満足そうな顔をしている。
小山は秋山の話に顎で深くうなずいて聞いていた。
場内を支配している生暖かい空気が、恂子の周りを避けて通過していく。

「・・・我々は団結しなければなりません。
主義主張を超えて世界の平和を築き上げようではありませんか。
皆さん、親愛なる皆さん!
私どもネオムー帝国は、
心から皆さんの愛とご理解を願っているのであります」
語り終わった秋山は、上げていた手をさっと落とし、再び机を叩いた。
ポン!
冴えた音が突き抜けていく。
報道陣の目に光が戻り、ストロボが次々にたかれた。
「それではこれで、本日の説明会を終わらせていただきます」
大使館の係員が言って、秋山とともに深々と頭を下げた。
取材陣一同も立ち上がって、
ぞろぞろと階段やエレベーターに向かっていく。
「世界平和のためだからなぁ」
誰かの独り言が聞こえた。

(戦い12~14へ続く)

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NO 218

戦い

7 

天の羽衣教団の記者会見は、
教団ビルのある、他の5ヶ国でも同時に行われていた。
これに対してポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの国々は、
即日独立を認めたばかりではなく、
その傘下にはいりたいという意向を明らかにした。
彼らの論拠はきわめて明快で、
自分たちはムーの子孫であるという一言に尽きた。

しかし、その海域に島々を領有する
英、仏、ニュ-ジーランドなどの国々は、
勝手に領土を主張するネオムー帝国なるものは、
重大な侵略行為をしているとして、
グァムとウエリントンに空母をはじめとする艦隊を進行させた。

その間ネオムー帝国は、フィージー諸島ごと隆起した
30万平方キロに及ぶ最大の陸地に、次々に大型のVTOLを飛ばし、
資材を運び込んでいた。
各国の偵察機や報道陣からの情報によると、
今までの6ヶ所のビルと同型のものを建築する模様である。
そしてその頃から、
各地教団ビルのテラス状の場所に頻繁にVTOLが発着し、
教団の人間が多数現地と往き来しているのが認められた。

その後も、教団側との接触はまったくなく、
現地においても、各国の報道機の着陸はすべて拒否され、
眼下に建築されていくビルを、口を開けて眺めている状態が続いていた。

そんな時、無為無策に焦れた英国BBCのチャーター機が、
建築現場に近い場所へ接近しようと突っ込んでいった。
だが、高度500メートルまで降下した機は、
何かの障壁にあって軽く跳ね返され、失速しそうになって、
慌てて上空に逃れたのである。
ネオムー帝国は世界各国に対して、
再度このようなことが起こった場合は、
我が国に対する重大な挑戦とみなし、
何らかの形で制裁せざるを得ないと警告した。

月刊GOOの編集部は、
刻一刻と変化する情勢に息つく間もない多忙な日々が続き、
正月恒例の”予言の刻”も、無期延期になっていた。
槙原恂子はネオムー帝国独立宣言の取材をきっかけに、
エルニーニョ関係から離れ、弥次喜多コンビと美雪をふくめた、
ネオムー帝国関係専門スタッフとして、会議室に顔をだしていた。

「デスク、帝国の独立宣言後、まだ10日しかたっていないのに、
中央太平洋の国々ばかりではなく、
エルサルバドル、コスタリカ、エクアドル、ペルー、
それに教団ビルのあるチリの5ヶ国が独立を承認しました」
恂子は資料をチェックしながら続ける。
「そのうちコスタリカ、ペルー、チリは、
時期を新たにして同盟を結びたいといっています」
「ウム、そしてたった今、ハワイがアメリカ合衆国から離れて、
ネオムー帝国の傘下にはいりたいと表明した」
「しかし、アメリカだって黙ってはいないでしょう」
小山が口をはさんだ。
相変わらず小さな声だが、妙に迫力がある。
そうでなくてもグァムやウエリントンでは、
英、仏、ニュージーランドの艦隊が集結して、
不穏な動きを見せているのだ。

態度を保留していたアメリカ合衆国は、
これを機にネオムー帝国の独立に非承認の意向を明らかにし、
ハワイに対して声明の撤回を求めたのである。

(戦い9~11へ続く)

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NO 217

戦い

二重の自動ドアを通り、ロビーに入ると、
三大新聞をはじめ、各テレビ局の取材陣が多数たむろしている。
会場に指定された3階の第一会議室で待っていると、
正午前、財団理事長の古谷と、常務の大沢が現れた。
うるさかった場内が嘘のように静まる。
前方の会見席についた二人は、
しばらく記者たちを見回していたが、
時計を見て頷き合い、まず古谷が立ち上がった。
「天の羽衣教団は、本日正午をもって、
中央太平洋に隆起させた陸塊群を固有の領土とし、
ここに、独立を宣言するものである」
古谷の声音にはよどみがなく、
会見の弁などは、一切省略されている。
「国名は”ネオムー帝国”である」

フラッシュが一つ上がり、続いて白光が入り乱れた。
しばらく声を失っていた場内のあちこちから、
”ネオムー”を繰り返す言葉や、
「なんだそりゃ」という声が飛び交う。
「以後いかなる国も
ネオムー帝国の領土近海50海里以内に入ることを禁ずる」
古谷は記者団を見渡し、威圧するように続けた。
「世界各国は速やかに、
ネオムー帝国の独立を承認するものと期待している」

記者団側は騒然となった。
あちこちから質問の矢が飛ぶ。
「帝国というと、代表者は皇帝ですか」
「もし、陸塊群をそちらの領土と認めない場合はどうなさるのですか」
「主張する領海に他国の船舶が入った場合はどうですか」
つわものたちが矢継ぎ早にまくし立てた。

大澤が答える。
ネオムー帝国は女王の国である。
女王は目下不在だが、4人の枢機卿の合議によって国事がなされ、
現在ある六カ所のビルがそれぞれの地区の総大使館を兼ねるという。
「アジア地区では、古屋が総大使、
私、大沢が、日本におけるネオムー帝国の大使の役割を担いますので、
よろしくお願い致します」
大沢が深々と頭を下げた。
「先ほどのご質問ですが、
不当に我が国の領土が侵犯されることがあれば、
当然報復することになるでしょう」
大沢はやわらかいが断固とした調子で言い切った。

記者団も黙っていない。
「その陸塊群に領土権を主張する根拠は何ですか」
前から2列目の男が立ち上がって言った。
「それは、われわれネオムー帝国が築き上げた領土だからです」
「ということは、先ほどの宣言にあったように、
隆起させて得た領土だということですね」
「そのとおりです」
大沢の答えに記者席からは、言葉にならないうなり声があがった。
今まで世界中を騒がし、多数の死者をだした、異変や事件は、
すべて、天の羽衣教団(ネオムー帝国)の意図によるものだと
公表されたのである。

それについての大沢の弁は、
なんと人類全体の幸福のためだと言うのだ。
ネオムー帝国はその大きな目的のためにこそ、
独立するのであるから、多少の犠牲はやむを得ないし、
独立を承認しないということは、
世界平和に背を向けるものであると断定した。
よって各国は
すみやかに、ネオムー帝国の独立を承認すべきであると結んだ。

最後に大沢大使は、ネオムー帝国の国旗を披露した。
旗の表面には、
アマランサスの扉に付いていたレリーフと同じ
太陽の紋章が、くっきりと浮かび上がっていた。

(戦い7~8へ続く)

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NO 216

戦い

中央太平洋に多数の陸塊群が浮上してから2週間がたち、
水道橋の倒壊ビルや、水害の復旧を残したまま元旦を迎えた。
一部を除いて株は暴落し、倒産が続いた。
水害にあった一般家庭の経済に追い打ちをかけるように、
野菜などの生鮮食料品の高騰が始まった。

編集部は、この未曾有の出来事を追うために、
休日を返上して出社していた。
槙原恂子はエルニーニョ関係の仕事を一時ストップさせて、
大陸隆起記事のまとめに余念がない。
しかし、今の恂子には、
教団が次にどのようにでてくるのか、うすうす分かっていた。
阿井との時を過ごしたあと、
彼の体内から直接伝わってくる波動を捉えていたのだ。

午前10時。
岡田のデスクで、電話が鳴った。
(きたわ・・・)
岡田は例によって、机上に上げた足を下ろしながら受話器を取った。
しばらく無言で聞いている。
「そうか、分かった」という声がいやにはっきり聞こえる。
岡田は山崎を呼んで何事か話していたが、
「頼んだデェー」と言い残して部屋を出て行った。

「天の羽衣教団は元日の今日正午に、共同記者会見をするそうだ」
デスクの山崎がみんなに伝えた。
「弥次喜多コンビは、まだ当分帰れないだろうから、
恂子と美雪で行ってくれ」
カメラを忘れるなよ、と山崎が付け加えた。
恂子は取材バッグに七つ道具を詰め込み、美雪に出発の合図を送る。

「先輩、教団の記者会見って何でしょうね」
美雪が言った。
水道橋へ向かう車の中である。
「さぁ、何かしらね」
知っていて、まだ答えられないことを訊かれるのは、つらい。
恂子は他の人に見えないものを見たり、感じたりすることが、
必ずしも楽しいことではないと思っている。
阿井は言った。
大海を知るということは、大変な事なのだと、
少なくとも、すぐには沈まない船をもっていなければならないと、
そして恂子は今、小舟を作りかけているような気がした。

阿井のことに心が向かうと、身体全体にしびれに似た感覚が戻ってくる。
あの時二人がしっかり抱き合いながら彷徨った空間は、
まったく現実を超越していた。
恂子は、阿井について、ムーについて、教団についても、
多くのことを知った。
それはとても一日や二日では理解不可能な情報量であった。
あれだけのものを見、感じ、経験し、
あれだけの時間を過ごしたのに・・・再び蝶の壁画の前へ戻った時には、
未だ午前0時前であった。
恂子が阿井の姿を見つけて走り出してから、30分もたっていなかったのである。
「あなたの愛の力が時の壁を超えさせたのです」
別れ際、阿井は恂子の耳元でささやき、きつく抱きしめてくれた・・・。

「先輩つきましたよ」
美雪に言われて恂子は我に返る。
車が教団ビルの正面に横づけされた。

(戦い、5,6へ続く)

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NO 215

 戦い

中央太平洋における突発的な大陸塊の隆起は、
重力に逆らって速度を上げ、海面に顔をだした時には、
秒速5センチメートルにもおよんだ。
押しのけられた海水は沈降部分の島々を、
あっという間に飲み込んでしまった。
近距離にあるオーストラリア、ニュージーランド、
パプアニューギアなどでは、
ある程度の対策がなされていたとはいうものの、
直接上げ潮になる津波のスピードに、
大都市の避難が間に合わず、
次々と襲ってくる、波高20から30メートルの水の壁に、
なすすべもなく翻弄された。
津波はさらに南北アメリカ、カムチャッカから中国に、
そして南極へと同心円状に進んでいった。

しかし、どうしたわけか、7月の地震や津波の時と同様に、
その後勢いがそがれ、各地の被害は意外に小さいものとなった。
日本においても、小笠原諸島でかなりの被害がでたものの、
最終的に三陸海岸に押し寄せた津波は波高4メートルに留まり、
最も心配された東京では、ゼロメートル地帯から
下町の一般民家にかけて、かなりの床上浸水がでたが、
津波の発生した10分後には、もう避難命令を出し、
避難場所や必要物資、食料や医薬品にいたるまでの
対策をたてていた政府の対応の早さによって、
人的な被害を皆無であった。

そしてそんな東京が一望のもとに見渡せる
天の羽衣教団ビル60階では、
ヴァイオレットクラスの4人が集まっていた。
「”破の舞”、第一段階終了。羽衣作動停止。領土復活70万平方キロ」
コンピュータの声とともに、眼前の霧の中に一際明るく、
中央太平洋の隆起した陸塊群が映し出される。

(羽衣の威力はすさまじい・・・)
誰かの印象が漂う。
(ところで、オーストラリア近辺はひどかったわねェ)
(ええ、しかし現在我々が持っている科学力では、これが精一杯です。
中和波のタイミングも難しく、とても全体を救うことは出来ませんでした)
(まあ、しかたあるまい。それで大陸全体の復活はいつ頃になるのだろう)
(それは、いつの日か我々の子孫がやってくれるだろう)
上部61階から”白のお方”の思念が降ってくる。
同時に霧の中の風景が一変する。

視点が遠ざかり、太平洋全体が見渡せるようになってから、
白く見えていた浅海全体が隆起しはじめる。
ゴツゴツとした岩だらけの陸塊が徐々に緑をおび、
やがて美しい大陸に変化していく。
(NO2、君のムーをみせてくれ)
(はい)
阿井が答えた。
緑の大陸に、丘が川が内海が生まれ、
神殿を囲んで大きな街並みができあがっていく。
満足そうにみているであろう”白のお方”は、
予定どうり思念を送った。
(”破の舞”第2段階開始)

(戦い3~4へ続く)

 

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NO 214

復活

33

”時の部屋”
阿井真舜が創造した空間である。
そこは、はぼ1万年の過去から現在に至る、
あらゆる時空間に通じていた。
未だ彼以外誰一人として足を踏み入れたことのない、
いや、踏み入れることの出来なかった場所・・・。
しかし、恂子はやって来た。

「愛の力だ」
阿井は片隅の寝台に近づきながら独りごちた。
そこには、時の壁を超えた衝撃に失神した恂子が横たわっていた。
やわらかく目をつぶっている白い顔は、安らかで気品に満ち、
その両側からシーツに落ちている黒髪とのあいだに、
ある種、情感の対立が感じられた。
見下ろす阿井の瞳に風波がたった。
彼はゆっくりとかがみ、
わずかに白い歯がみえる恂子の唇に、
静かに自分のそれを重ねていく。
恂子は阿井の新鮮な生の息吹を受けて目を開いた。

(阿井さん・・・)
胸の中で、阿井の息吹が発火した。
それは、みるみる燃え広がり、
深紅の炎となって全身を駆け巡ると、唇の接点から逆流していく。
阿井は彼女の体内からあふれ出る、灼熱の流れを感じていた。
あとからあとから、つきることを知らない愛の炎であった。
それは彼の体内を隅々まで満たし、さらに激しく押し寄せて来る。
(・・・・・)
阿井は声にならない叫びを発した。

突然部屋がゆがむ。
室内にあるものが次々と消滅していく。
机が椅子が書棚が寝台が、
そして彼らの身につけている衣服までが・・・。
今、阿井真舜は、自らの手で、
自らが創造した空間を崩壊させたのである。

(・・・・・)
恂子も、心の中で叫んでいた。
彼ら二人以外のすべてのものが消滅していく中で、
恂子と阿井は宙に浮いていた。
全裸でしっかりと抱き合い、ゆっくりと水平に回転していた。
二人の愛は二人だけの空間を創造し、満たしていた。
感覚器官が独立性を失い、目も耳も鼻も、舌も
すべてが二人の接点に集中していった。
・・・・・・・

34

虚空に蝶が舞い始める。
赤、青、黄色、何千、何万、何億、何兆。
色とりどりの蝶が、二人の周りに氾濫していた。
恂子はその時、
自分の中心から再び逆流して、刻々と自分を満たしつつある、
愛の潮に翻弄されながら、
夢のように展開する絵巻物に見とれていた。

 さんさんと降り注ぐ太陽。
 美しく広い内海、白い六角の石柱、壮麗な神殿、
 網の目のような水路、きらめく人工の滝・・・。
 そして河畔に佇む男。

眩暈をを感じる中で、すべてが眼前を通過していく。
恂子は、それがムーの首都、水の都ヒラニプラであり、
阿井真舜が時の旅人であることを肌で悟っていた。

二人の周りを乱れ飛ぶ蝶が、徐々に速度をましてきた。
恂子は自分を余すところなく満たし尽くしたものが、
一気に飛翔する時の予感に緊張する。
刹那、
恂子の体内からあふれ出した愛の潮は、
唇の接点から、津波となって阿井の体内に流れ込んだ。
一瞬遅れて彼の内奥からも、灼熱のマグマが噴出する。
二つの流れは合体して彼らを繋ぎ、
二人のあいだを高速で回転した。
宙に浮いた身体も回転する。
億万の蝶も回転する。
三重の螺旋は、今やすべての色彩を脱して、
真っ白な閃光を放ちながら、
10000年におよぶ時空間に飛散した。

35

同じ頃、曲立彦は六星グループの新型観測機のなかから、
きらめく中央太平洋の海水が、大きく盛り上がるのを見ていた。
それはかつて彼がこの洋上で見た幻のように、
どんな力にも屈しない強い意志を持って、
四方八方に海水を押し分け、ちぎり飛ばし、
しぶきを上げて一気にはねあがった。

「長径290キロ、高さ最高670メートル、
面積約6万平方キロの大陸塊です」
機内の電子器機を操作していた観測員が大声をあげた。
だが曲はその声をまったく聞いてはいなかった。
眼下に飛び出した大陸塊だけではない。
大小数え切れないほどの陸塊が、次々と浮上しはじめたのだ。
その度に海水は盛り上がり、泡立ち、
沸騰して白い牙をむき出しながら、
手当たり次第に近くの陸塊群に襲いかかり、
跳ね返り、先を争って十方に突進していった。

(こんなことがあるものだろうか。
いや、あっていいものだろうか。
すべてが自然に逆らっているではないか)
”しんかい6500”の母船から見た真っ赤な夕陽を思い出す。
(自然は自然のままであるべきだと、訴えかけていたではないか)
曲は自分の内奥から、あの夕陽よりもさらに赤く、
激しい怒りがこみ上げてくるのを感じ、
「先生」と呼びかけてくた四倉助手の声を聞いたような気がした。

そんな彼をよそに、機内では即時に通信衛星による専用波が、
六星グループのスーパーコンピュータと連動され、
観測員が次々とデータを送り込んでいる。
結果が来る。
眼下に広がる一面の陸塊群は、
日付変更線をはさんで、
東西約6000キロ、南北約4500キロにおよぶ範囲に隆起し、
最大のものは、フィージー諸島を飲み込んで浮上した、
面積30万平方キロの大陸塊であった。

(「復活終わり、「戦い」1~2へ続く)

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NO 213

復活

31

岡田の電話で駆けつけてみると、
水道橋付近はパニック状態となっていた。
かなりの数のビルが倒壊し、
ひび割れて途中から折れ曲がっているものもある。
E電が脱線横転し、おびただしい車が、
まるで箒で掃かれたように、道路脇に寄せられていた。

上空では、東京ドームの屋根が
大型のアドバルーンか飛行船さながらに、
ちらつく雪のなかに舞い、
散乱したコンクリートや、ガラスの破片のあいだには、
目を覆う死体がころがっていた。

あちこちで燃えている火や煙の隙間からは、
かん高く叫びあう声が聞こえ、
救急隊が負傷者の応急手当をしたり、
死者を運び出したりして動き廻っている。
雪と周囲の混乱のため、救急車が、思うに任せず、
自衛隊のヘリコプターの出動が要請された
下界の騒ぎを睥睨してそそり立つ
天の羽衣教団ビルの中程の高さに、いくつかの機影が見える。

カメラマンの良ちゃんがすぐに行動を開始した。
弥次喜多コンビは被害情報のチェックに、
恂子と美雪は、目撃者を捜してインタビューに駆け回る。
目撃者によると、ズーンという低い音とともに
教団ビルが数秒間身震いするように振動しただけだという。
しかし、
その直後突然周りのビルが崩れ、E電が脱線したのである。

地震予知連絡会の委員に意見を求めたところ、
まれには、
直下型の地震で、局地的に強い揺れが発生すすることもあるが、
今回のように、数秒で停止することはなく、
おそらくこれは、きわめて大きな低周波の塊が
吹き抜けたのではないかという見解を示した。

午後9時、都知事を本部長とする、
災害対策本部の共同記者会見に臨んだ恂子たちは、
発表内容にしばし茫然とした。
現在確認されただけでも、
死者358人、重軽傷者4000人におよぶという。

太平洋側の、他の三つの教団ビル付近においても、
同様なことが起こったという情報についての質問に、
当局からの回答があった。
その情報は事実であり、
直ちに教団ビルの立ち入り捜査が行われたが、
9階までの人間は、まったく要領を得ず、
令状を持った捜査官が、18階まで上がったが、
目に触れた人間は一人もいなかった。
しかも18階から19階へ上る手段は、
階段やエレベーターはおろか、
通気口に至るまで、何一つ発見出来なかったというのである。

今の恂子には、最初の財団訪問の時に大沢が話していた、
教団の戒律のことが分かるような気がした。
(きっと、何かの超自然的能力がないと、
上へは、行けないのに違いないわ)

32

午前0時すぎ、恂子は社に戻って原稿をまとめ終え、
一人歌舞伎町へ向かっていた。
今はもう、店ゝのイルミネーションも復旧し、
繁華街にはクリスマスソングが流れている。
つい目と鼻の先で大事故があったことなど、
ほとんど感じさせない人の波である。

(アマランサスで逢いたい)
光の雪が降る中で、阿井は確かにそう言った。
(ゆるしてくれたのね・・・)
恂子は降りしきる現実の雪の中を、
ペンダントに手を触れながら、真っ直ぐ前を見て歩いていた。
どういうわけか周囲の人たちが、彼女に道を譲っている。
やがて彼女は、確信に満ちた足取りで右へ曲がり、
アマランサスへの階段を下りていった。

太陽のレリーフのついた扉が開く。
中は無人であった。
恂子は、正面奥の壁に近づいていく。
壁は待っていたように左右に分かれる。
阿井が立っていた。
恂子は、両足を揃えて立ち止まり、大きく目を見開くと、
今度は、彼に向かって走り寄った。
だが、ほんの4,5メートルの距離なのに届かない。
阿井のところにたどり着かないのだ。
それでも走った。
蝶の壁面が阿井の後方に迫ってくる。
さらに走った。
まだ届かない。
前方に見えていた蝶の壁画が左右にもある。
そして、天井にも床面にも一面に蝶が飛んでいる。
恂子は懸命に走った。
両目から涙があふれる。

ふいに、床面が消失した。
恂子は回転しながら、
蝶の舞う空間をどこまでも落下していった。

(復活33~34へ続く)

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NO 212

復活

28

11月のある深夜。
黒々と屹立いている教団ビルの頂上から突然火花が散った。
たまたま目撃した者がいたとすれば、
東京中何処にいても分かったであろうほどの、
強烈なスパークであった。
近くには異常はなかったが、
伊豆の別荘地で、窓ガラスが割れる騒ぎがあった。
しかし、それはほんの一瞬のことであり、
ましてや、ロサンゼルス、シドニー、サンチャゴにおいても、
同様のスパークがあったなどとは、
その時点で誰一人知るよしもなかった。

一ヶ月が過ぎた。
その間中央太平洋の隆起は、
最上端が海面下500メートルのところで停止していた。
いまや、衛星写真によるまでもなく、
北西に傾いて飛翔しようとしている、蝶の姿がはっきりと現れ、
不気味な静寂を保っていた。

そしてここ東京。
新宿には雪が降っていた。
かってなかったような大雪である。
ジングルベルが流れるなか、
妙にぼやけたイルミネーションが、白い街に沈んでいた。
(きれいだわ・・・)
槙原恂子は、月刊GOO編集部の窓から外を眺めている。
彼女ばかりではない。
席を外している岡田を除く全員が窓に寄ってきていた。
恂子は大好きな夢道人の詩を思い浮かべる。

 雪が降る、雪が降る
 音もなく降り積もる
 人の世の喜びも悲しみも
 白くつつみ眠らせる
 ・・・・・・・

(雪がすべてを浄化してくれている・・・)
恂子は、世界中で起こっている未曾有の混乱でさえ、
やがて自然が解決してくれるような気がした。
手がペンダントにいき、目をつぶる。
光の雪が降っている。
恂子は心を込めて呼びかける。
雪が生まれている原点が接近し、光が八方に散る。
そこに阿井の姿があった。
(・・・!)
恂子の唇から小さな吐息が漏れた。

編集長の机で、けたたましいベルの音がした。
皆が呪縛を解かれたように動き出す。
受話器を取ったデスクの山崎の耳に、岡田の怒鳴り声が響いた。
「水道橋へ行け!」

29

「”破の舞”進行中、主要部分海面まで500メートル。現在停止中」
紫色の霧の中にコンピュータの声がうつろにこだまする。
(どんな時でも無感動な声ですね)
NO4のすこしざらついた波動が伝わる。
(イライラしても仕方があるまい)
(”羽衣”はまだですか)
時の旅人、NO2、阿井真舜が訊いた。
(4大支部の”白のお方”が探査中です)
(だいぶ人心を惑わしているようじゃないの)
NO3の皮肉な波動が割り込む。
(まあ、そういうな。彼らでさえ、
そうしなければならないほど、困難なことなのだから)

 11月に教団ビルで起こった激しいスパークは、
 この上に住む”白のお方”に原因があるらしい。
 そう、彼が通常の探査波に
 自らの霊波を融合させた瞬間に起こったスパークである。
 そしてその後一ヶ月余、
 太平洋岸の四つのビルの頂上から、放射された融合探査波が
 一点に集中され、
 はるか太平洋の海底、地殻の内部を走査していたのである。
 ”羽衣”を見つけるために・・・・・。

(たしか教団に伝わっている石版の文字が、
一部解読されたところによると、
”羽衣”はムーが沈んだ刻、同時に失われたということでしたね)
(そうだ、それは未だ太平洋の奥底に眠っているはずだ)

 母なるムーの甦るとき
 六つの青き息吹に誘われ
 再び闇より解き放たれん
 そは羽衣
 虚空に舞う

NO1が一部を暗唱した。
それは、彼らの未来を予言しているものとされ、
教典として、敬い親しんできたものであった。
そして今その時が迫っている。
羽衣さえ見つかれば・・・。 

静かに刻が移っていく。

30

「オゥ!」
4人が同時に快哉の声を上げた。
「”羽衣”発見。現在作動位置へ移動中」
コンピュータが無感動に告げる。
中央太平洋、海面下650キロ、20万気圧。
それは、6個の銀白色をした球の集合体であった。
四方から目に見えない力で捉えられ、
徐々にスピードをあげながら、上昇していく。
アセノスフェア、リノスフェア、地殻・・・
やがてその集合体は、
たくさんの空洞をもつ隆起陸塊の中央部に位置して、
いったん停止すると、
6個の球体が解き放され、それずれが水平に分散した。

「”羽衣”予定位置に移動完了」
コンピュータの声に重なるように”白のお方”の思念が伝わる。
(”羽衣”即時作動!)
ビル全体が極超低音のうなりに振動する。
次の瞬間、全東京のイルミネーションが光を失った。
はるか彼方、中央太平洋の隆起陸海の内部では、
6個の白銀球が、12000年の眠りから目覚め、
周囲に青いマイナスの光を放ち始めた。

その時、阿井の超感覚に、
槙原恂子の心からの呼びかけが響いていた。
(アマランサスで逢いたい)
阿井は、決心したように自らの想いを送信した。

復活31~32へ続く。

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