NO 216

戦い

中央太平洋に多数の陸塊群が浮上してから2週間がたち、
水道橋の倒壊ビルや、水害の復旧を残したまま元旦を迎えた。
一部を除いて株は暴落し、倒産が続いた。
水害にあった一般家庭の経済に追い打ちをかけるように、
野菜などの生鮮食料品の高騰が始まった。

編集部は、この未曾有の出来事を追うために、
休日を返上して出社していた。
槙原恂子はエルニーニョ関係の仕事を一時ストップさせて、
大陸隆起記事のまとめに余念がない。
しかし、今の恂子には、
教団が次にどのようにでてくるのか、うすうす分かっていた。
阿井との時を過ごしたあと、
彼の体内から直接伝わってくる波動を捉えていたのだ。

午前10時。
岡田のデスクで、電話が鳴った。
(きたわ・・・)
岡田は例によって、机上に上げた足を下ろしながら受話器を取った。
しばらく無言で聞いている。
「そうか、分かった」という声がいやにはっきり聞こえる。
岡田は山崎を呼んで何事か話していたが、
「頼んだデェー」と言い残して部屋を出て行った。

「天の羽衣教団は元日の今日正午に、共同記者会見をするそうだ」
デスクの山崎がみんなに伝えた。
「弥次喜多コンビは、まだ当分帰れないだろうから、
恂子と美雪で行ってくれ」
カメラを忘れるなよ、と山崎が付け加えた。
恂子は取材バッグに七つ道具を詰め込み、美雪に出発の合図を送る。

「先輩、教団の記者会見って何でしょうね」
美雪が言った。
水道橋へ向かう車の中である。
「さぁ、何かしらね」
知っていて、まだ答えられないことを訊かれるのは、つらい。
恂子は他の人に見えないものを見たり、感じたりすることが、
必ずしも楽しいことではないと思っている。
阿井は言った。
大海を知るということは、大変な事なのだと、
少なくとも、すぐには沈まない船をもっていなければならないと、
そして恂子は今、小舟を作りかけているような気がした。

阿井のことに心が向かうと、身体全体にしびれに似た感覚が戻ってくる。
あの時二人がしっかり抱き合いながら彷徨った空間は、
まったく現実を超越していた。
恂子は、阿井について、ムーについて、教団についても、
多くのことを知った。
それはとても一日や二日では理解不可能な情報量であった。
あれだけのものを見、感じ、経験し、
あれだけの時間を過ごしたのに・・・再び蝶の壁画の前へ戻った時には、
未だ午前0時前であった。
恂子が阿井の姿を見つけて走り出してから、30分もたっていなかったのである。
「あなたの愛の力が時の壁を超えさせたのです」
別れ際、阿井は恂子の耳元でささやき、きつく抱きしめてくれた・・・。

「先輩つきましたよ」
美雪に言われて恂子は我に返る。
車が教団ビルの正面に横づけされた。

(戦い、5,6へ続く)

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NO 215

 戦い

中央太平洋における突発的な大陸塊の隆起は、
重力に逆らって速度を上げ、海面に顔をだした時には、
秒速5センチメートルにもおよんだ。
押しのけられた海水は沈降部分の島々を、
あっという間に飲み込んでしまった。
近距離にあるオーストラリア、ニュージーランド、
パプアニューギアなどでは、
ある程度の対策がなされていたとはいうものの、
直接上げ潮になる津波のスピードに、
大都市の避難が間に合わず、
次々と襲ってくる、波高20から30メートルの水の壁に、
なすすべもなく翻弄された。
津波はさらに南北アメリカ、カムチャッカから中国に、
そして南極へと同心円状に進んでいった。

しかし、どうしたわけか、7月の地震や津波の時と同様に、
その後勢いがそがれ、各地の被害は意外に小さいものとなった。
日本においても、小笠原諸島でかなりの被害がでたものの、
最終的に三陸海岸に押し寄せた津波は波高4メートルに留まり、
最も心配された東京では、ゼロメートル地帯から
下町の一般民家にかけて、かなりの床上浸水がでたが、
津波の発生した10分後には、もう避難命令を出し、
避難場所や必要物資、食料や医薬品にいたるまでの
対策をたてていた政府の対応の早さによって、
人的な被害を皆無であった。

そしてそんな東京が一望のもとに見渡せる
天の羽衣教団ビル60階では、
ヴァイオレットクラスの4人が集まっていた。
「”破の舞”、第一段階終了。羽衣作動停止。領土復活70万平方キロ」
コンピュータの声とともに、眼前の霧の中に一際明るく、
中央太平洋の隆起した陸塊群が映し出される。

(羽衣の威力はすさまじい・・・)
誰かの印象が漂う。
(ところで、オーストラリア近辺はひどかったわねェ)
(ええ、しかし現在我々が持っている科学力では、これが精一杯です。
中和波のタイミングも難しく、とても全体を救うことは出来ませんでした)
(まあ、しかたあるまい。それで大陸全体の復活はいつ頃になるのだろう)
(それは、いつの日か我々の子孫がやってくれるだろう)
上部61階から”白のお方”の思念が降ってくる。
同時に霧の中の風景が一変する。

視点が遠ざかり、太平洋全体が見渡せるようになってから、
白く見えていた浅海全体が隆起しはじめる。
ゴツゴツとした岩だらけの陸塊が徐々に緑をおび、
やがて美しい大陸に変化していく。
(NO2、君のムーをみせてくれ)
(はい)
阿井が答えた。
緑の大陸に、丘が川が内海が生まれ、
神殿を囲んで大きな街並みができあがっていく。
満足そうにみているであろう”白のお方”は、
予定どうり思念を送った。
(”破の舞”第2段階開始)

(戦い3~4へ続く)

 

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NO 214

復活

33

”時の部屋”
阿井真舜が創造した空間である。
そこは、はぼ1万年の過去から現在に至る、
あらゆる時空間に通じていた。
未だ彼以外誰一人として足を踏み入れたことのない、
いや、踏み入れることの出来なかった場所・・・。
しかし、恂子はやって来た。

「愛の力だ」
阿井は片隅の寝台に近づきながら独りごちた。
そこには、時の壁を超えた衝撃に失神した恂子が横たわっていた。
やわらかく目をつぶっている白い顔は、安らかで気品に満ち、
その両側からシーツに落ちている黒髪とのあいだに、
ある種、情感の対立が感じられた。
見下ろす阿井の瞳に風波がたった。
彼はゆっくりとかがみ、
わずかに白い歯がみえる恂子の唇に、
静かに自分のそれを重ねていく。
恂子は阿井の新鮮な生の息吹を受けて目を開いた。

(阿井さん・・・)
胸の中で、阿井の息吹が発火した。
それは、みるみる燃え広がり、
深紅の炎となって全身を駆け巡ると、唇の接点から逆流していく。
阿井は彼女の体内からあふれ出る、灼熱の流れを感じていた。
あとからあとから、つきることを知らない愛の炎であった。
それは彼の体内を隅々まで満たし、さらに激しく押し寄せて来る。
(・・・・・)
阿井は声にならない叫びを発した。

突然部屋がゆがむ。
室内にあるものが次々と消滅していく。
机が椅子が書棚が寝台が、
そして彼らの身につけている衣服までが・・・。
今、阿井真舜は、自らの手で、
自らが創造した空間を崩壊させたのである。

(・・・・・)
恂子も、心の中で叫んでいた。
彼ら二人以外のすべてのものが消滅していく中で、
恂子と阿井は宙に浮いていた。
全裸でしっかりと抱き合い、ゆっくりと水平に回転していた。
二人の愛は二人だけの空間を創造し、満たしていた。
感覚器官が独立性を失い、目も耳も鼻も、舌も
すべてが二人の接点に集中していった。
・・・・・・・

34

虚空に蝶が舞い始める。
赤、青、黄色、何千、何万、何億、何兆。
色とりどりの蝶が、二人の周りに氾濫していた。
恂子はその時、
自分の中心から再び逆流して、刻々と自分を満たしつつある、
愛の潮に翻弄されながら、
夢のように展開する絵巻物に見とれていた。

 さんさんと降り注ぐ太陽。
 美しく広い内海、白い六角の石柱、壮麗な神殿、
 網の目のような水路、きらめく人工の滝・・・。
 そして河畔に佇む男。

眩暈をを感じる中で、すべてが眼前を通過していく。
恂子は、それがムーの首都、水の都ヒラニプラであり、
阿井真舜が時の旅人であることを肌で悟っていた。

二人の周りを乱れ飛ぶ蝶が、徐々に速度をましてきた。
恂子は自分を余すところなく満たし尽くしたものが、
一気に飛翔する時の予感に緊張する。
刹那、
恂子の体内からあふれ出した愛の潮は、
唇の接点から、津波となって阿井の体内に流れ込んだ。
一瞬遅れて彼の内奥からも、灼熱のマグマが噴出する。
二つの流れは合体して彼らを繋ぎ、
二人のあいだを高速で回転した。
宙に浮いた身体も回転する。
億万の蝶も回転する。
三重の螺旋は、今やすべての色彩を脱して、
真っ白な閃光を放ちながら、
10000年におよぶ時空間に飛散した。

35

同じ頃、曲立彦は六星グループの新型観測機のなかから、
きらめく中央太平洋の海水が、大きく盛り上がるのを見ていた。
それはかつて彼がこの洋上で見た幻のように、
どんな力にも屈しない強い意志を持って、
四方八方に海水を押し分け、ちぎり飛ばし、
しぶきを上げて一気にはねあがった。

「長径290キロ、高さ最高670メートル、
面積約6万平方キロの大陸塊です」
機内の電子器機を操作していた観測員が大声をあげた。
だが曲はその声をまったく聞いてはいなかった。
眼下に飛び出した大陸塊だけではない。
大小数え切れないほどの陸塊が、次々と浮上しはじめたのだ。
その度に海水は盛り上がり、泡立ち、
沸騰して白い牙をむき出しながら、
手当たり次第に近くの陸塊群に襲いかかり、
跳ね返り、先を争って十方に突進していった。

(こんなことがあるものだろうか。
いや、あっていいものだろうか。
すべてが自然に逆らっているではないか)
”しんかい6500”の母船から見た真っ赤な夕陽を思い出す。
(自然は自然のままであるべきだと、訴えかけていたではないか)
曲は自分の内奥から、あの夕陽よりもさらに赤く、
激しい怒りがこみ上げてくるのを感じ、
「先生」と呼びかけてくた四倉助手の声を聞いたような気がした。

そんな彼をよそに、機内では即時に通信衛星による専用波が、
六星グループのスーパーコンピュータと連動され、
観測員が次々とデータを送り込んでいる。
結果が来る。
眼下に広がる一面の陸塊群は、
日付変更線をはさんで、
東西約6000キロ、南北約4500キロにおよぶ範囲に隆起し、
最大のものは、フィージー諸島を飲み込んで浮上した、
面積30万平方キロの大陸塊であった。

(「復活終わり、「戦い」1~2へ続く)

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NO 213

復活

31

岡田の電話で駆けつけてみると、
水道橋付近はパニック状態となっていた。
かなりの数のビルが倒壊し、
ひび割れて途中から折れ曲がっているものもある。
E電が脱線横転し、おびただしい車が、
まるで箒で掃かれたように、道路脇に寄せられていた。

上空では、東京ドームの屋根が
大型のアドバルーンか飛行船さながらに、
ちらつく雪のなかに舞い、
散乱したコンクリートや、ガラスの破片のあいだには、
目を覆う死体がころがっていた。

あちこちで燃えている火や煙の隙間からは、
かん高く叫びあう声が聞こえ、
救急隊が負傷者の応急手当をしたり、
死者を運び出したりして動き廻っている。
雪と周囲の混乱のため、救急車が、思うに任せず、
自衛隊のヘリコプターの出動が要請された
下界の騒ぎを睥睨してそそり立つ
天の羽衣教団ビルの中程の高さに、いくつかの機影が見える。

カメラマンの良ちゃんがすぐに行動を開始した。
弥次喜多コンビは被害情報のチェックに、
恂子と美雪は、目撃者を捜してインタビューに駆け回る。
目撃者によると、ズーンという低い音とともに
教団ビルが数秒間身震いするように振動しただけだという。
しかし、
その直後突然周りのビルが崩れ、E電が脱線したのである。

地震予知連絡会の委員に意見を求めたところ、
まれには、
直下型の地震で、局地的に強い揺れが発生すすることもあるが、
今回のように、数秒で停止することはなく、
おそらくこれは、きわめて大きな低周波の塊が
吹き抜けたのではないかという見解を示した。

午後9時、都知事を本部長とする、
災害対策本部の共同記者会見に臨んだ恂子たちは、
発表内容にしばし茫然とした。
現在確認されただけでも、
死者358人、重軽傷者4000人におよぶという。

太平洋側の、他の三つの教団ビル付近においても、
同様なことが起こったという情報についての質問に、
当局からの回答があった。
その情報は事実であり、
直ちに教団ビルの立ち入り捜査が行われたが、
9階までの人間は、まったく要領を得ず、
令状を持った捜査官が、18階まで上がったが、
目に触れた人間は一人もいなかった。
しかも18階から19階へ上る手段は、
階段やエレベーターはおろか、
通気口に至るまで、何一つ発見出来なかったというのである。

今の恂子には、最初の財団訪問の時に大沢が話していた、
教団の戒律のことが分かるような気がした。
(きっと、何かの超自然的能力がないと、
上へは、行けないのに違いないわ)

32

午前0時すぎ、恂子は社に戻って原稿をまとめ終え、
一人歌舞伎町へ向かっていた。
今はもう、店ゝのイルミネーションも復旧し、
繁華街にはクリスマスソングが流れている。
つい目と鼻の先で大事故があったことなど、
ほとんど感じさせない人の波である。

(アマランサスで逢いたい)
光の雪が降る中で、阿井は確かにそう言った。
(ゆるしてくれたのね・・・)
恂子は降りしきる現実の雪の中を、
ペンダントに手を触れながら、真っ直ぐ前を見て歩いていた。
どういうわけか周囲の人たちが、彼女に道を譲っている。
やがて彼女は、確信に満ちた足取りで右へ曲がり、
アマランサスへの階段を下りていった。

太陽のレリーフのついた扉が開く。
中は無人であった。
恂子は、正面奥の壁に近づいていく。
壁は待っていたように左右に分かれる。
阿井が立っていた。
恂子は、両足を揃えて立ち止まり、大きく目を見開くと、
今度は、彼に向かって走り寄った。
だが、ほんの4,5メートルの距離なのに届かない。
阿井のところにたどり着かないのだ。
それでも走った。
蝶の壁面が阿井の後方に迫ってくる。
さらに走った。
まだ届かない。
前方に見えていた蝶の壁画が左右にもある。
そして、天井にも床面にも一面に蝶が飛んでいる。
恂子は懸命に走った。
両目から涙があふれる。

ふいに、床面が消失した。
恂子は回転しながら、
蝶の舞う空間をどこまでも落下していった。

(復活33~34へ続く)

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NO 212

復活

28

11月のある深夜。
黒々と屹立いている教団ビルの頂上から突然火花が散った。
たまたま目撃した者がいたとすれば、
東京中何処にいても分かったであろうほどの、
強烈なスパークであった。
近くには異常はなかったが、
伊豆の別荘地で、窓ガラスが割れる騒ぎがあった。
しかし、それはほんの一瞬のことであり、
ましてや、ロサンゼルス、シドニー、サンチャゴにおいても、
同様のスパークがあったなどとは、
その時点で誰一人知るよしもなかった。

一ヶ月が過ぎた。
その間中央太平洋の隆起は、
最上端が海面下500メートルのところで停止していた。
いまや、衛星写真によるまでもなく、
北西に傾いて飛翔しようとしている、蝶の姿がはっきりと現れ、
不気味な静寂を保っていた。

そしてここ東京。
新宿には雪が降っていた。
かってなかったような大雪である。
ジングルベルが流れるなか、
妙にぼやけたイルミネーションが、白い街に沈んでいた。
(きれいだわ・・・)
槙原恂子は、月刊GOO編集部の窓から外を眺めている。
彼女ばかりではない。
席を外している岡田を除く全員が窓に寄ってきていた。
恂子は大好きな夢道人の詩を思い浮かべる。

 雪が降る、雪が降る
 音もなく降り積もる
 人の世の喜びも悲しみも
 白くつつみ眠らせる
 ・・・・・・・

(雪がすべてを浄化してくれている・・・)
恂子は、世界中で起こっている未曾有の混乱でさえ、
やがて自然が解決してくれるような気がした。
手がペンダントにいき、目をつぶる。
光の雪が降っている。
恂子は心を込めて呼びかける。
雪が生まれている原点が接近し、光が八方に散る。
そこに阿井の姿があった。
(・・・!)
恂子の唇から小さな吐息が漏れた。

編集長の机で、けたたましいベルの音がした。
皆が呪縛を解かれたように動き出す。
受話器を取ったデスクの山崎の耳に、岡田の怒鳴り声が響いた。
「水道橋へ行け!」

29

「”破の舞”進行中、主要部分海面まで500メートル。現在停止中」
紫色の霧の中にコンピュータの声がうつろにこだまする。
(どんな時でも無感動な声ですね)
NO4のすこしざらついた波動が伝わる。
(イライラしても仕方があるまい)
(”羽衣”はまだですか)
時の旅人、NO2、阿井真舜が訊いた。
(4大支部の”白のお方”が探査中です)
(だいぶ人心を惑わしているようじゃないの)
NO3の皮肉な波動が割り込む。
(まあ、そういうな。彼らでさえ、
そうしなければならないほど、困難なことなのだから)

 11月に教団ビルで起こった激しいスパークは、
 この上に住む”白のお方”に原因があるらしい。
 そう、彼が通常の探査波に
 自らの霊波を融合させた瞬間に起こったスパークである。
 そしてその後一ヶ月余、
 太平洋岸の四つのビルの頂上から、放射された融合探査波が
 一点に集中され、
 はるか太平洋の海底、地殻の内部を走査していたのである。
 ”羽衣”を見つけるために・・・・・。

(たしか教団に伝わっている石版の文字が、
一部解読されたところによると、
”羽衣”はムーが沈んだ刻、同時に失われたということでしたね)
(そうだ、それは未だ太平洋の奥底に眠っているはずだ)

 母なるムーの甦るとき
 六つの青き息吹に誘われ
 再び闇より解き放たれん
 そは羽衣
 虚空に舞う

NO1が一部を暗唱した。
それは、彼らの未来を予言しているものとされ、
教典として、敬い親しんできたものであった。
そして今その時が迫っている。
羽衣さえ見つかれば・・・。 

静かに刻が移っていく。

30

「オゥ!」
4人が同時に快哉の声を上げた。
「”羽衣”発見。現在作動位置へ移動中」
コンピュータが無感動に告げる。
中央太平洋、海面下650キロ、20万気圧。
それは、6個の銀白色をした球の集合体であった。
四方から目に見えない力で捉えられ、
徐々にスピードをあげながら、上昇していく。
アセノスフェア、リノスフェア、地殻・・・
やがてその集合体は、
たくさんの空洞をもつ隆起陸塊の中央部に位置して、
いったん停止すると、
6個の球体が解き放され、それずれが水平に分散した。

「”羽衣”予定位置に移動完了」
コンピュータの声に重なるように”白のお方”の思念が伝わる。
(”羽衣”即時作動!)
ビル全体が極超低音のうなりに振動する。
次の瞬間、全東京のイルミネーションが光を失った。
はるか彼方、中央太平洋の隆起陸海の内部では、
6個の白銀球が、12000年の眠りから目覚め、
周囲に青いマイナスの光を放ち始めた。

その時、阿井の超感覚に、
槙原恂子の心からの呼びかけが響いていた。
(アマランサスで逢いたい)
阿井は、決心したように自らの想いを送信した。

復活31~32へ続く。

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NO 211

復活

24

扉を押して入ってきた岡田を見て、由美は胸が熱くなってくる。
彼が現れる数分前から、由美は彼の波動をとらえていたが、
その数分間が、何とも言えず待ち遠しい。
すでに火にかけておいたサイフォンに、特製のコーヒーを入れ、
カウンターの前を通っていく岡田に、はずんだ声をかける。
「いらっしゃいませ」
ここ半月以上、岡田は由美の部屋を訪れていなかった。
教団の”破の舞”について詳しく調べる必要があるのだと言っていた。
「コーヒーでしょうか」
コーヒーなのは分かっている。
他の客の手前訊いている。

岡田は頷きながら由美の頭の中に、
扉のそばのボックスにいる客について尋ねている。
その客は、これまで2,3度店に来ている。
週刊誌を読みながら、ひっそりとコーヒーを飲んで帰っていく客である。
その客に注意するようにと、岡田から由美に無言の指示があった。

前に逢った時、岡田は忙しくて寝る暇もないと言っていた。
それは彼の場合、文字道理眠っていないことだった。
由美の部屋で一夜を過ごした時でさえ、
添い寝してくれただけだったような気がする。
(いったいいつ何処で眠っているのかしら・・・)
由美は、岡田によって覚醒されてから、5年近くにになるのに、
彼の動向については、ほとんど分からない。
それをいっこうに不満に思わない自分も、不思議であった。

岡田専用の豆の香りが、あたりに広がる。
温めたカップに、心を込めたコーヒーを注ぐ由美は、
それだけで、幸せで、満たされていた。

25

「ママ、何を考えてんだ」
カウンターにいた二人の男のうち一人が上目遣いに由美を見た。
「別に何も・・・」
「いい人のことだとさ」
別の一人が言った。
「ホウ、好きな人がいるのか」
「ええ、たくさんいるわよ」
由美は微笑みながら
コーヒーとミルクを載せたトレイを岡田の席へ運んでいく。
「ママはいつだって冷たいんだから・・・帰ろうか」
カウンターの一人が、もう一人を促して立ち上がった。
扉側のボックスの客も後を追うように出て行く。
客が岡田だけになって、”モカ”には、音楽と香りの時間が流れる。

26

岡田がカウンターに移ってきた。
「結論がでたよ」
「えっ、なんですの」
「ムーの復活だ」
「ムーの・・・」
「天の羽衣教団は、ムーの血を受け継いだ、超能力者の集団だ。
彼らは同じ血を受け継ぐ者を集め、
12000年前に太平洋に没した国土を、復活させようとしているのだ」

岡田は胸のポケットに手を入れて由美を見る。
素早く察した由美は引き出しから紫色の小箱を差し出して渡し、
マッチを擦る。
しばらくの沈黙の後、岡田が話題を変えた。
「恂子が覚醒した。天の羽衣教団の導師、阿井真舜がそうさせたのだ」
「どうして彼女が教団の・・・」
「いや、恂子はまだ自分を、ほんとうには知らない。問題は阿井だ。
何故GOOの血を引く我々サイドの者と知っていて、覚醒させたのだろう」
「なぜでしょうか・・・」
「彼女は彼にとっても必要な存在なのだろうか・・・
そんなことを超えて、真の意味で愛し合っているのかもしれないが・・・」
「きっと、そうですわ」
由美は我が意を得たりというように、
しかし、控えめな声で言った。
(愛はすべてを超えるのですわ。私がそうだから・・・)
一瞬二人の目が合った。

27

岡田は由美の大きく見開いた瞳の中に、
恂子と阿井の、愛の秘密をみたような気がした。
恂子に対して、大切にしなければいけないと思っていた理由も、
朧気に分かりかけていた。
(二人が愛し合うことが、人類にとって必要なのかも知れないな)
岡田の思いに紫煙が揺れる。

どうやら予言の刻で語られてことは当たっているようだ。
ムーの血を引く者として、今世界中を混乱させている教団の計画と、
それを回避しようとしているGOOの仲間たちとが、対立しているのだった。

「羽衣をみたことがあるか」
岡田がまた話題を変えた。
「羽衣・・・ですか」
「そうだ」
「三保の松原の伝説なら・・・でもお能には行ったことがありませんわ」
「教団は羽衣を探しているのだ」
それがこの半月で得た、岡田の第二の結論であった。

(復活28~30へ続く)

 

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NO210

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第2回東京タワー文化フェスティバル
拙作「時の哀歌」~チューバとマリンバのための~収録中。
今週いっぱい東京タワーテレビで、インターネット発信。

弘前市合唱連盟60周年記念演奏会
11月5日、無事成功裡に終えることができました。
お運びいただいた皆様、ご協力をいただいた皆様に
心から感謝し、お礼申し上げます。
今後また一歩ずつ進んでまいりますので、
ご指導のほど宜しくお願い申し上げます。

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復活

21

槙原恂子と、星野美雪は、
現地から送られてくる情報をまとめるのに忙しい。
他の連中も、編集長の岡田と二人のデスク以外は、全員出払っていた。
「先輩、これでどうでしょうか」
美雪がグラビアのレイアウト案を見せた。
中心に海洋観測衛星”モモ1号”による現地写真が載っている。
青い海原に、はっきりと浅い白い部分が浮き出し、
左右に翅を広げた蝶が、
北西へ向かって飛翔しようとしている姿を彷彿させる。
「すばらしいわ、OKよ。デスクにまわして・・・」

言いながら恂子は、アマランサスの蝶の壁画を思い出していた。
最初にあの壁画を目にした時から、
彼女は蝶の群れに暗示的な強い印象を受けて、
忘れられないものになっていた。
手がペンダントに触れる。
目をつぶると幸福の光が身体を包んでいく。
阿井真舜の姿は現れない。
恂子は、目を閉じたまま、しばらくじっとしている。
心が鎮まってきて、
あの壁画が、
やはり、この隆起部分を象徴的に表現しているのだと分かってきた。
空からは、さんさんと太陽の光が降り注いでいるのだ。
(でもあの黒い扉は何かしら)

22

右手のドアが勢いよく開いて、
大山と小山のヤジキタコンビが飛び込んで来た。
彼らはたった今現地から戻ってきたところである。
「驚きました。予想以上です。
特にフィージー諸島の隆起は、とても信じられません。
地表面は3メートル以上持ち上がり、
近海の浅い部分は海上に姿を現しているんです」
「隆起の速度は」
小山の報告に、デスクの山崎が質問する。
「現地で六星海洋気象研究所の曲部長にインタビューできました。
彼によると、隆起の開始は7月1日の地震の時と推定され、
その速度は3000メートルの海底で、時速40センチ、
1000メートルで、その1/10、
300メートルの浅海では、さらにその1/10の、
0.4センチとなっているそうです」
「で、原因は?」
「トンガ海溝で急速にプレートが沈み込んでいる他は、
はっきりしたことは分からないのですが、
四方から海底が押し上げられて、その分周囲が沈降しているそうです」
「”しんかい6500”で潜ったんだろう」
「ええ、決死の調査だったそうです。
急激な隆起のため、問題水域の海底に長い亀裂が走り、
それに向かって
逆方向から崩れ現象が起こっているのが確認されました。
浮上しつつある部分の周囲がどんどん沈み込み、
それを埋めるように海底が移動しているのです」
「うーむ、で、住民の反応は」
「問題水域を囲む中央、東、南の各太平洋海盆は、特に沈降が激しく、
20メートル以上の水位上昇となり、住民は避難を始めています。
しかしフィージーをはじめ、一般的にはわりと冷静で、
彼らの話によれば、”神の怒り”だとのことでした」
小山の報告が続いている。

23

大山がどうも腹が減ってこまるなどといいながら、
恂子たちのほうへやって来た。
「すごかったぜ、あれこそが自然の芸術ってェやつだな。
あたしゃチャーター機から眺めて感動したよ」
一人で騒いでいる。
「太平洋に大きな蝶が舞いだしたって感じだな、ありゃー」

そうだ、まったく自然の創造した芸術としか言いようがなかった。
恂子たちも、たった今、
”モモ1号”からの映像に目をみはったところである。
現地の上空から見て回った大山たちは、
さぞかし驚いたことであろう。
「えつ、本当、すごいわねー」
美雪が相づちを打った。
(ウフフ・・・)
恂子は心の中で微笑む。
自席で、黙って山崎たちの話を聞いていた岡田が、ゆらりと立ち上がった。

(復活24,25,26へ続く)
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NO 209

縮小_60周年記念
60周年を記念し、各団体の枠を超えて
女声、男声、混声のステージを組みました。
下記のプログラムです。
どうぞお運びください。
60周年プログラム

復活

19

10月にはいり、あちこちで紅葉の声がきかれるようになってきた。
遠く離れた太平洋で、何が起ころうと、
いや、たとえ隣で殺人が行われたとしても
無関心を決め込む人たちが何と多いことだろう。
ここ東京でも、その無関心故の事件が毎日のように起こっていた。

「人口が増えすぎたのよ」
NO3が言う。

「その中で、ほんとうに生き甲斐を持っている者は、
どれくらいいるのかしら」
「それだけならいいのですが、
生きることが他にとって非常に悪である連中がたくさんいるのです」
NO4が真面目な顔で付け加える。
「ある意味では死にたがっている人も多いんじゃないの」
「教団の中だけではなく、一般の人たちでも、
そんな人には安楽死を与えてやるべきだと思います」
「一石二鳥ってわけね」
「そうです。食料やエネルギーのことを考えると
今でも世界の人口は多いくらいです」
「方法は別としても
世界平和のためとあらば、実行することになるだろうな」
NO1が締めくくり、コンピュータに破の舞の進行状態をたずねる。

20

「”破の舞”進行中。
メラネシア、ポリネシア、ミクロネシアとも現在予定の3/5を終了。
なお浮上中」

(12月になるな)
(そうです。いよいよ我々の国土の復活です)
「”破の舞”進行中。メラネシア第23ガスチェンバー破損」
(フム、そんなこともあるだろう)

教団の”破の舞”は中央太平洋の海底をハイスピードで押し上げている。
それは海底にある岩盤の空洞に、
火山性のガスを送り込むことからはじまった。
岩盤は膨張し上部を押し上げていく。
それと同時に基部は四方から押され、さらにスピードをあげる。

「”破の舞”進行中。トンガ海峡プレートの沈み込み順調」

中央太平洋の重力減少により、
ゆっくりと潜り込んでいたトンガ海溝のプレートが、
次第に速度を増し、フィージー諸島を中心に急激な隆起が起こっているのだ。
要所要所に教団が開発した強化オリハルコンが注入され、
それぞれのガスチェンバーの外壁に、
通常の何十倍もの粘着力と堅固さを与えていた。
問題の海域は、3000メートルの海底がすでに1800メートルまで隆起し、
海上部分においても、月に1メートルの速さで地盤が上昇を続けている。
現地には毎日のように報道陣や科学者グループが往き来し、
どんなに無関心を決め込んでいる人たちも、
ただ漠然と眺めているわけにはいかなくなっていた。

(復活21~23へ続く)
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NO 208

復活

15

曲立彦は緊張していた。
これから、初めて実際に海底へ潜るのだ。
だが、そのことばかりが緊張の原因ではない。
何か、途方もない現象に出会いそうな予感がする。

彼は、支えようとするクルーを制して、
直径2メートルはあると思われる耐圧室に滑り込んだ。
壁面は、器機で埋まっていて。
パイロットの小田桐と、コ・パイの白戸が、
表を見ながら最終チェックをしている。
曲は出航以来、もう顔なじみになっている二人に黙礼し、観測席につくと、
すでにシュミレーターによって練習済みの器機を確認していった。
やがて、海面下6500メートルまで潜水可能で潜水時間9時間という、
世界最高の自走式潜水調査船”しんかい6500”は、
その全長9.5メートル、重量25トンの巨体を静かに沈め始めた。

スピードは徐々にあがり、美しい南の海はゆっくりと暗黒に包まれていく。
「深度500,異常なし」
白戸が言うと、小田桐が曲のほうへ首を回した。
「先生、2000メートルまで、一気にいきますよ」
ニヤリと笑って白い歯を見せる。

一つを除けば打ち合わせどうりであった。
その一つというのは、この付近に海底が、
地図に示されているものより、約1000メートルも隆起していたことである。
前々日に潜った海洋科学技術センター側の話によると、
隆起面と海盆との間には、約60度の崖が形成され、
最深部では、逆に沈降していることがわかった。
昨日、再度の潜水により、
隆起速度は毎時40センチという信じられない数値を示し、
計器類を再チェックしたほどであった。

16

そして今日,
曲は3000メートルであったはずの2000メートルの海底に着底した。
「曲先生、ここが問題の海域の北の端にあたります。
もう50メートルほど北へ進むと、海盆へ滑り落ちる崖になります」
曲は、のぞき窓からライトに照らし出された海底に目をやる。
ゴロゴロした岩状のところに泥のようなものが被さり、
それが時々舞い上がっている。
(静かだ・・・)
この海底が超スピードで持ち上がっているとは、とても信じられなかった。

小田桐が母船へ現状を報告してから、あらためて指示を求めた。
「崖を降下しましょうか」
「お願いします」

崖にそって1000メートルほど降下する。
やや角度がゆるやかになり、
周囲には多数の卵形の岩がころがっている。
流れ出た溶岩が、
一瞬のうちに海水で冷却されるためにできる、枕状溶岩である。

「右方2時の方向に熱水噴出」
曲はライトの光のなかで、目を凝らした。
崖の斜面に12,3本のチムニーが出来て、
煙のようなものが噴出している。
「熱水温度260度。深海生物は見当たらない」
白戸が言った。

17

船はさらに下降、2800メートルの海底すれすれに崖を離れて行く。
2キロほど進んだであろうか。
海底に幅10メートルほどの細長い亀裂が見え始めた。
「あの縁まで言ってみてください」
曲が小田桐に指示した。

船は亀裂の上部まで来て静止する。
「おっ!」
亀裂の縁の小岩が動いた。
いや、その中に転がり込んでいるのだ。
それは、ハイスピードカメラで捉えられたように、
最初はゆっくり、
やがてゴロゴロと回転して暗い奈落へ吸い込まれていった。
白戸がマニピュレーターをを操作して岩石の採集にかかる。

突然船が後方へ大きく飛ばされた。
上下の感覚が何度も逆転する。
曲は必死にシートにしがみつく。
だが、小田桐は、
巧みに両横のプロペラを操作して舟を安定させた。
「マニピュレーター、操作不能。主推進器異常なし」
白戸の声を聞きながら、
小田桐は自分でも器機をチェックし、母船に報告している。
「亀裂の沿って崩れたのですね」
「そうです。手元の計算によっると、
長さ600メートル、幅30メートルほどが、斜めに削り取られたようです」
「それにしても驚きました」
「まあ、このくらいはよくあることですよ」
小田桐が白い歯を見せた。

18

初めての潜水を無事終えた、曲立彦は、
今、正に水平線に沈み込もうとしている真っ赤な夕日を見ていた。
百万の宝石をちりばめた、光の帯が眼下まで続いている。
それは、これからやってくる闇を想像するには、
あまりにも華やかで、美しく儚い。
まるで、もう明日はないとでもいうように、
すべてをこの一瞬に燃焼しつくして、激しく切なく訴えかけてくる。
太陽がそして海が主張していた。
<自然は自然にあるべきだ>・・・と。

(復活19~20へ続く)

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NO 207

東京TW2表
チラシ2版

今回、上記のように、
東京タワー文化フェスⅡに出品する仕儀に至りました。
お時間がありましたら、お運びくだされば、幸いに存じます。

復活

13

「破の舞進行中。ガス移動順調。計画領域浮上予定どうり」
コンピュータの声が聞こえていた。
それは、誰のために語っていると言うわけではない。
定時の報告であろうか。
この部屋、教団ビル60階の紫色の霧の中には、人影はおろか気配さえない。

2階下、58階にもその声が流れていた。
ここも紫色の霧がたなびき、たくさんの書物らしいものが山積みにされている。
それは単に書物というだけではない。
石版、粘土板、金属板、竹筒をはじめ、
羊皮紙やパピルスなど、ありとあらゆる書物と言ったほうが良いかもしれない。
そしてそのほとんどは、触れればすぐに崩れてしまいそうな年代を感じさせる。
世界中のマニアが、
どんなことをしてでも手に入れたいと願っている、古文書であった。

霧がわずかに発光し、書物の山の中心に、長身の男の姿がにじみ出た。
阿井真舜である。
彼はすぐに、一つの石版を取りあげてじっと見つめ、
よし、というように次の石版に手を伸ばす。
彼は今、未来のムーのあるべき姿を創造しているのである。
古代ムー帝国は言うに及ばず、可能なかぎりの時を翔んで、古文書と照合し、
その事実に基づいて新しいムーを設計しているのである。
いや、ムーをふくむ全世界といったほうが良いかも知れない。
その中には、政治、経済、文化、科学、芸術、そして宗教に至るまで、
あらゆる分野の未来像が包含されていた。
その意味で彼は、神の領域にまで踏み込んでいるのである。
彼の思考が一瞬変化し、その手がすこし脇へそれれば、
世界は、まったくその様相を異にするであろう。
文字どうり、一瞬も気が抜けない作業であった。

14

「破の舞進行中。強化オリハルコン注入開始」
(始まったか)
阿井は作業を続けながら同時に思っていた。
遠い祖先の残した偉大な遺産。
”オリハルコン”
それは現在教団の科学力によって、真空中で量産され、
他との合金も可能になったことから、
教団ビルの外壁など、あらゆるものに応用されていた。
そして今、崩れたガスチェンバーを再生しながら浮上しようとしている、
岩盤の再生触媒および接着剤として、
ゾル状の強化オリハルコンが注入されたのだ。

その時、阿井の超感覚は別の波動を捉えていた。
槙原恂子の呼びかけである。
彼は未だ彼女との心の回路を開いていない。
アマランサスで彼女の体内に眠るマグマを感じた時、
阿井は瞬間に未来を観ていた。
それは、彼女が相対する側にいるという条件を超え、
阿井や教団だけに留まらず、人類全体にとって大切な存在であるとみえた。
だから恂子とは、個人的な感情と別の次元でも、
優しくしかも厳しく接していかなければならないと思った。
(彼女なら大丈夫だ)

槙原恂子に関して、
相対するはずの阿井と岡田にもかかわらず、
奇しくも同じ見方をしている。
しかし、その存在が何故大切なのか、
それは二人にも、まだはっきりと分かっていないのである。

(復活15,16,17へ続く)

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