No.66

「追憶」という曲がありました。

教員採用試験での「弾き歌い」の曲でした。
呼ばれて検査室に入ると楽譜を渡されるのです。

もう45年も前のことです。

曲は原則としてどんなものがでるかわからないし、
人によってもちがうのですが、
だいたい中学校の教科書から出ることが多く、
私にあたったのが「追憶」でした。

当時高音が苦手で、反面低音がよく響いていたので、
レッスンでは低声用をさらに下げてうたっていた私は、
歌の楽譜を見ると「高いな」が癖になっていました。
(お店では言いませんよ)

ピアノの前に座り、楽譜を譜面台に置きながら
思わず「ちょっと高いな」とつぶやいてしまったのです。

ほとんど囁きであったにもかかわらず、審査の先生の耳にとどいたらしく、
「移調してもかまいませんよ」と声をかけられギョッとしてしまいました。
「いえ、このままでやらしていただきます」とは言ったものの、
つぶやいたこと自体、かなり減点の対象となったにちがいありません。

最近は要人の失言が目立っていますが、
一度言ってしまったら、その人の意向ばかりではなく
教養や人間性まで分かってしまい
訂正しても、もう後の祭りなのですね。

「追憶」となってしまった、多くの出来事の一つひとつが、
私を育ててくれていたと気づき始めたのは、
何時の頃だったでしょうか。

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