NO 184

覚醒

11

槙原恂子は東口をぬけて、ゆっくり歌舞伎町へ向かっていた。
相変わらず、人また人である。
信号を渡って新宿コマのほうへ、、
人波に押し流されるようにして歩いて行く。
(理佳は彼と逢ってるかな)
(良ちゃんはどうして早く帰ったのかしら)
(編集長は挨拶で、何を言いたかったのだろう)
思考の断片が頭をよぎる。
(阿井さんは、どうしているかしら)
いつの間にか
心のの中に住みついてしまった人のことに思いが至って、
恂子の思考が停止した。

何度か会いたいと思ったが、
何故か、彼に悪いような気がして、
教団に連絡する気にはなれなかった。
それにどんなに気持ちが沈んでいる時でも、
ペンダントに触れると落ち着いてくるのだった。
だが、今日はちがう。
「好きなひとができたんだろう」と良ちゃんや理佳に見抜かれ、
また、これからホテルのロビーで逢うという、
二人のことも、刺激になっていた。
(会いたい!)
恂子は心からそう思った。
右手の指でペンダントをはさむ。
胸の中心が熱くなり、塊となってせり上がってくる。

 まっすぐ前を見て歩いている恂子は気がつかなかったが、
 ペンダントの金属片がかすかに発光して、
 その光は彼女の指先をやわらかく包んでいた。
 道行く人たちが、不思議そうに彼女の胸元に視線を送っている。

恂子は熱い胸をかかえ、人波からはずれて、大通りを右へ曲がった。
”アマランサス”と書いてあるはずの、暗くぼんやりとした看板が出ている。
恂子は、ためらわず階段を下りて扉を押した。

「いらっしゃませ」
黒服が寄ってきて頭を下げる。
会釈を返し、なにかに誘われるようにして、 奥へ進んでいく。
正面の壁が音もなく左右に開いた。
蝶の壁画が迫ってくる。
壁画の蝶が恂子を迎えて喜こび、
彼女の後ろについてくるような感じがした。

12

第3の扉が開いた。
懐かしい赤い花の世界が広がっている。
中央の発光する柱の光が噴水に溶け込み、
上部の夜空には、今夜も星が輝いていた。
かなりの客がボックスにいる。
この前流れていた、東洋的なBGMはきこえない。
カウンターに座ると、例の赤い酒がでてきた。
飲む前から、頭の中に、
弱音の弦のトレモロがきこえるような気がする。

「いらっさいませ」
先日の女性が近づいてきて声をかけた。
「この店をあずかっている洋子でございます。
もうすぐ阿井さんもみえますわよ」
隣に座って恂子の顔をのぞき込んだ。
「何を考えていらっしゃるの」
「ええ、前とちがって、あまりにもスムーズに入れたものですから・・・」
「きっとそれのせいですわ」
洋子は微笑みながらの恂子の胸を指した。
「えっ、これですか」
「阿井さんがわたしたのでしょう」
洋子はいたずらっぽい目になる。
「ええ・・・」
「このペンダントは、ここの会員証のマークをふくんでいるんです。
それにこの金属は・・・」
あとは何を言っているのか恂子には分からなかったが、
洋子は一人で納得しているようだった。
「このペンダントに、特別な仕掛けでもあるのでしょうか」
「そうよ、それに反応して扉が開いたのです。
阿井さんは、あなたがおいでの時に入れるように、
心をくばっておいたのでしょう」
阿井は、恂子がまた来ることを予測していたのだ。
どんなに長い間離れていても、
きっとまたここで、恂子と会えることを確信していたに違いない。

 恂子は、あらためてペンダントを持ち上げてみた。
 そういえば、入り口の扉についていた、
 太陽のレリーフに似ている。
 じっと見つめていると図形がぼやけ、
 想念のような、あいまいなものを感じる。

いつの間にか店内には、ギターのトレモロが流れていた。
「あら、お見えになったみたいよ」
洋子が立ち上がった。

(覚醒13~14へ続く)

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