NO 200

縮小_現代音楽展
5回目の東京出品です。
時間がありましたら、お運びください。

序破急計画

26

「風早の三保の浦曲をこぐ舟の、浦人騒ぐ波路かな・・・・・」
 朗々とした声が響き渡る。
 最初は眼下に小さく見えていた建物が、
 ゆっくり回転しながら目の前に迫ってくる。
 正面に白州があり、階を通して本舞台が見渡せる。
「われ三保の松原により、浦の景色を眺むるところに、
虚空に花降り音楽きこえ霊香四方に薫ず・・・・・」
 ワキが松の立木にかけてある長絹をとって脇座へ行きかける。
「なうその衣は、こなたのにて候。何しに召され候ぞ」
 シテの天人がワキに呼びかけて登場する。
 増に天冠縫箔腰巻である。

<羽衣ですね>
男の丸みのある波動が伝わって来た。
<あの松は森田さんです>
<なるほど、国立能楽堂ですか>
 
 どのような光源になっているのか、舞台の周りだけが明るく、
 白州の手前をはじめ、一の松から斜め後方や、地裏、
 そして、屋根をふくめて切り取ったような闇に包まれている。
 もちろん本物の国立能楽堂だはない。
 だが、それと寸分違わない迫力と重量感を備えている。
 3次元ホログラフィーである。

「悲しや羽衣なくては飛行の道も絶え、天上に帰らんこともかなふまじ・・・・・」
<羽衣は彼らの手に戻るでしょうか>
<結局そうなるでしょう>
 どうやらこの真っ暗な空間に二人の男がいるらしい。
 どことも知れない所から二つの知性が、穏やかに滲んでいた。

27

 いくばくかの時が流れ、舞台は物着になる。
 シテが後見座で長絹をつけている。
<まあそれが彼らにとって一番幸福なのかもしれませんね。Kさん>
<・・・・・>

「君が代は天の羽衣稀に来て」
「撫づるも尽きぬ巌ぞと・・・・・」
「南無帰命月天子、本地大勢至」
 地謡になり、シテは常座にいって舞い始める。

<さすがですね>
<藤田さんです>
 太鼓入り序の舞である。
<ところで”序の舞”はどうなりました?>
<完了したようですね>

「東遊びの数々に、その名も月の色人は・・・・・」
 地謡が続くなか、シテは舞いながら大正前をまわり、
 招き扇をして正面先へ出てくると、左へ廻って常座につく。

<破の舞いですね>
<そう、現在進行中のようです>
<どうしてもやるんでしょうか>
<序の舞に続くものですからね>
<そうなれば、φが出ますか>
 人間には発音不可能な何かを表現した時、
 一人の穏やかな波動にかすかな脅えが混じっていた。
<それは破の舞の美しさ次第でしょう>
<かなり混乱しますか>
<・・・・・>

「時移りて、天の羽衣浦風にたなびく・・・
天の御空の霞に紛れて、失せにけり」
 シテは扇をかざして小さく廻り、左袖を返して留拍子を踏む。

<”急の舞”もありますか>
<φが出ればそうなるでしょうね>

能楽堂はみるみる縮んで、一点に消える。
二人の波動も徐々に薄れていく。
ただ真に闇の空間だけがひっそりと存在していた。

(序破急計画」終了)
「復活」1,2,3へ続く

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