戦い
33
GOOによる教団との接触はことごとく失敗に終わり、
グレート・ロンリー伯爵は、
国連側の意識に与えていた最後の歯止めを解いた。
その日のうちに世界六カ所のネオムー帝国大使館は、
国連軍の激烈な攻撃をうけることになった。
しかし、あの大陸隆起の衝撃にさへ耐えた、
強化オリハルコンの外壁は,
強力な電磁バリアーと相互作用して、傷一つつかなかったばかりか、
帝国側のVTOLによる、俊敏な反撃によって、
国連側は損害を増す一方であった。
アジア総大使館も国連機に取り囲まれ、
爆弾やロケット弾の集中攻撃を受けたが、
着弾の前に,
漆黒のビル全体がまばゆい光を放つと、
爆弾はおろか、爆撃機までが、アメのように軟化し、
自ら火を噴いて落下していった。
そして3月30日、
国連はついにネオムー帝国中央政府ビルに対して、
核のの使用を決議し、
帝国に向けて降伏しない場合は、24時間後に核攻撃を行うという、
最終通告を発したのである。
帝国の同盟国は国連を激しく非難し、核攻撃の撤回を迫った。
一方帝国側は、指定の時間になっても、
降伏はおろか、一切の譲歩表明もなく、
「どうぞ、おやりなさい」とでも言うように、沈黙を守っていた。
34
3月31日。
帝国領海線下の海中にいた原潜から、
ついに弾道ミサイル(SLBM)が射出された。
やってみればあっけないほど簡単なことであった。
最後に赤いボタンを押せばいいだけなのである。
だが・・・、
帝国中央政府ビル上空1800メートルで爆発した核弾頭は、
1秒後に1平方センチメートルあたり、1000カロリーの熱を放射し、
直径2300メートルの大火球となって上昇した。
ほとんど同時に、圧力値1平方センチメートルあたり、
1.2キログラムの衝撃波が地上に激突し、
そのすぐ後を追うように、
風速140メートルの爆風が放射状に広がっていった。
やがて、火球は、高度5400メートルでキノコ雲を形成し、
爆心点より5.2キロ以内で、
毎秒130メートルのアフターウインドを内側に吹き込みながら、
4分12秒後には、高度28300メートルに達した。
そして1時間後。
強風火炎によって発生した積乱雲は、
キノコ雲と合体して放射能を帯びた黒い雨が降り始めた。
・・・・。
しかし、
徐々に薄れていく雲間から、あの黒い異様なビルが、
何事もなかったように、変わらぬ姿を現したのである。
固唾を飲んで見守っていた、世界中の人々は、
一言もなく、沈黙していまった。
35
(すごいですね)
紫色の霧の中に映し出された、帝国中央政府ビルの映像を見ながら、
NO4が目を輝かせた。
(それにしても、国連はよく踏み切ったものだな)
(しかし、これで計画はずっとやりやすくなりました)
(バカな奴らね。天に向かって唾するとはこのことだわ)
「爆発規模1メガトン級。半径20キロ圏内壊滅。即死者6万人」
(24時間では、避難が間に合わなかったのです)
(まさか本当にやるとは思わなかった連中も多かっただろう)
(それで、こちらの計画のほうは、どのくらい人間が死ぬことになるの)
(水や食料事情、そしてエネルギーから考えて、
10億は死んでもらいたいところです)
(どうせいらない人間ですものね)
女がいともあっさりと相づちを打った。
コケモモのハーブティーを楽しみながら思念を交わす、
天の羽衣教団ヴァイオレットクラス4人のなかで、
阿井だけが沈黙を守っていた。
「破の舞第3段階開始10時間前」
コンピュータの無機質な声が流れた。
(戦い36~37へ続く)
上部「SF小説ムーの幻影」のボタンをクリックすると、
最初からご覧いただけます。