NO 235 New

出発(たびだち)

「女王陛下!」
4人が感動の声をあげた。
青い海の上空に浮かんでいる女性の像はたちまち拡大し、
今や空全体に広がっていた。
それは天の羽衣教団18階の壁に描かれていた羽衣そのままの、
天女の姿にほかならなかった。
(・・・・・・・)
女王の清らかな波動が伝わった。
「”急の舞”でしょうか」
(・・・・・)
「どうしてもだめなのでしょうか」
(・・・・・)
「はい、羽衣をラグランジェ点まで移動させます」
(・・・・・)
「お待ちください!もう一度ムーを、ネオムーを・・・」
4人の声に必死の思いがこもる。
だが彼らの前にさえ初めて出現した女王の姿は、
重合する音群の彼方へと溶け込んでいく。
上空には色とりどりのきらめく光と、音の融合だけが残っていた。

また海鳴りがする。

その同じ音は東京のアジア総大使館にも響いていた。
「”破の舞”進行中。雌阿寒岳、駒ヶ岳、浅間山、三原山、
雲仙、阿蘇山、桜島活動中」
コンピュータの声がする。
紫色の霧の中に、
三原山と浅間山の噴煙にはさまれた
陰鬱な東京の街並みが映し出されている。
(今、中央政府より指令がはいった。
やはり”急の舞”は実施される。羽衣は移動を開始したそうだ)
NO1が断定した。
(でも”破の舞”は成功しているんでしょう)
(うむ、すでに帝国の傘下に入った国は140を超え、
約2億4000万の人口減となっている)
(順調じゃないの、なのにどうして・・・)
(GOOが関係していますね)
阿井が静かに言った。
このビルでNO4の消滅と同時に、
新生火山地震研究所と六星海洋気象研究所の所長をはじめ、
ブルークラス4人が廃人となっている。
(ほんとうに一瞬のことだったわ)
NO3が岡田の出現と、No4の消滅を再現させて、
恐怖と欲情の入り交じった雰囲気をふりまいた。

遠い海鳴りの音がコンピュータの発生装置をふるわせる。
(ところでさっき”白のお方”から確認されたんだが、
ビチアス海淵の調査はどうなっている)
(太田黒に命じて例の”しんかい6500”を稼働させることになっていますわ。
今頃はもう現地でしょう)
NO4の消滅の後、彼の仕事を引き継いだNO3が答えた。
目の前の三原山が音のない火柱を噴き上げる。
(所長の後任は見つかりましたか)
(ええ、新生火山地震研究所のほうはブルークラスに専門家がいましたが、
・・・・・六星のほうは、この際つぶしてしまおうと考えていますわ)
この妖艶な女は、いつものように、あっさりと言ってのけた。

(出発5~7へ続く)

 

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NO 234 New

出発

明るい爽やかな陽射しの中に4人の男が円卓を囲んでいる。
(フィリピン沖の地震は我々の手によるものではない)
(”破の舞”の最終段階に誘発されたものではないのか)
(それにしては規模が大きすぎる。フィリピン沖だけというのも妙だ)
ザー、ザーと繰り返し音がしている。
4人のすぐそばまで波が打ち寄せているのだ。
はるかに続く白い砂浜の向こうは、パールグリーンの浅海である。
(今までこんなことはなかったな)
(ウム、何か気になる)

「外部汚染地域洗浄処理順調」
コンピュータの声がする。
ここはフイージー大陸塊、
1メガトン級の核爆発にも耐えた帝国政府中央ビルである。
4人がいるのは本当の海岸ではない。
このビル60階の枢機卿室である。
外は放射線汚染によって人間の住めるような環境ではない。
だが、彼らはそんなことをまったく意に介した風もなく、
自然そのままの日光浴を楽しんでいる。
帝国の科学力は、すでに汚染地域を洗浄しつつあり、
内部に至ってはいっさい汚染の影響を受けていない。

「”破の舞”進行中。帝国の傘下国134」
(他の国も、事実上何も出来る状態ではあるまい)
「計画による死亡者2億3900万」
コンピュータが無感動に告げる。
(まあ、こんなものだろう)
(10億と言ったのは、あなたがたの総大使館ですよ)
(彼はちょっと過激なところがあったからな。
だがもう、この世にはいない・・・)
アジア総大使館の「白のお方」、枢機卿NO1の思いがゆれる。
(GOOの急襲でヴァイオレットクラスだけでも5名をうしないました)
(そのことだが、今回のフィリピン沖地震と、
それに続く奇怪な海鳴りも、彼らの手によるものではないのか)
(いくら彼らでも、そこまではできまい)
人種も言葉もまったく異なるはずの4人だが、
意志の疎通にことかくことはない。

遠い海鳴りが聴こえる。
コンピュータの発生装置が呼応する。
(発信源はビチアス海淵だそうだが・・・)
(うむ、今頃は我々の誘導で、日本政府が探査に動いているはずだ)
白のお方が遠い目をした。
爽やかな風が4人の寛衣をゆらし、
青い海はビル内の空間を超えてどこまでも続いているように、
緩やかにカーブした水平線を描いている。

「時刻です」
4人が緊張したように立ち上がった。
彼らの耳に超高温が響く。
やがてそれは柔らかな音群となって、無限に重合していく。
さんさんと降り注ぐ陽の光の中に、
半透明の薄絹を纏った、長い黒髪の女性の姿が浮かび上がった。

(出発3~4へ続く)

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NO 233 New

戦い

44

ネオムー帝国の6っの総大使館ビル内に進入したGOOのメンバーは、
教団始まって以来のダメージを与えた。
アジア総大使館では、ヴァイオレットクラスNO4を失い、
その時点で彼に精神連動していたブルークラス4人と、
グリーンクラス16人が廃人となった。
古代ムーに翔んでいたNO2の阿井は別として、
急を察知して帰還したNO1の応援がなければ、
NO3の妖艶な姿も、二度と見ることはできなかったであろう。
ネオムー側は自重し、ガードを固めた。

そして、
10億人の人口減を目指す帝国の”破の舞”は、
いよいよその最終段階に突入した。
大量の火山灰によって、どんよりとした空に、太陽光は弱められ、
地球は徐々に気温を下げ始めた。
鉛色の重い雲が、これから冬に向かおうとするかのように、
4月10日を過ぎた東京に雪を降らせた。
ニューヨークは有史以来なかった直下型地震によって壊滅し、
モスクワでは、クレムリンが陥没した。
ロンドンには、高波が襲い、
パリは大竜巻の洗礼をを受けた。

自然現象をコントロールし、
兵器として使用するネオムー帝国の世界蹂躙に、
国連は再び崩壊し、世界は、なすすべもなく1億3000万人を失った。
各地の総大使館ビル前に集まった群衆は、前にも増して熱狂し、
街には「ネオムー、ネオムー」の声が広がっていった。

破の舞は、それだけにとどまらなかった。
4月20日、厚い雲に覆われて、冷却していく地球に
とどめを刺すかのように、
残っていた環太平洋火山帯をはじめとする、
同盟側の山々が一斉に火を噴き上げた。
中でも1980年に北側400メートルを吹き飛ばされた、
アメリカのセントヘレンズは、
今回さらに南側が、大きく山体崩壊し、中央部に低い丘だけが残った。
日本では雌阿寒岳、駒ヶ岳、浅間山、三原山、雲仙、阿蘇山、桜島と、
次々に噴煙をあげ、
ネオムー同盟国として、特に対策を講じることもなく、
楽観視していた太田黒内閣は、
民友党結党以来、最大の危機を迎えたのである。

45

フィリピンでは、タールのほか、
ピナツボ、マヨン・ヒポックヒポック、アウ、ソプタンが間を置かず噴火し、
太平洋岸の近海では、大きな地震が発生した。

「データを出してくれ」
アジア総大使館のNO1が言った。
「フィリピン沖、ケープジョンソン海淵と、エムデン海淵で、地震発生。
前者マグニチュード8.0、後者8.5」
コンピュータが答える。
(おかしいな・・・)
No1が首をひねった。
この地震は帝国の破の舞には関係ないものであった。
そして、その日4月22日から、太平洋全域にわたって、
呪文を唱えるような低い音が響きはじめ、日ごとに音量を増していった。
不気味な海鳴りは、4月30日に至って、
世界中のテレビやラジオなどに感応しだした。
発信源はビチアス海淵、海面下11034メートルであった。

<やはり#b”””~が出ますか。Kさん>
空間の深淵に畏怖の念が漂った。
<教団の破の舞は完璧でしたからね>
<何度同じことが繰り返されるのでしょうか>
<それぞれ原因を異にしていますからね>
<最初の時から、もう35億年になります>
<私たちは予言をしても、実際に手を下すことはできませんからね>
空間の深淵に”観察者”Kと
”記録者”Sの穏やかな波動が拡散していった。

いは終了、次章、出発(旅立ち)へ続く)

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NO 232

戦い

42

「だまされてはいけない。
帝国はすでに世界中の人間を300万人も殺害しているのだ」
突然アジア総大使館ビルの上空から大音声が鳴り響いた。
人々は叫びを中断されて、頭上を見上げる。
どんよりとした雲の下に、長大な男の姿が映し出された。
人影の長さは100メートル以上はあるだろう。
スカイダイビングのように、両腕を広げた姿を、群衆に向けていた。
テレビアイがズームする。
(編集長だわ・・・)
他の者には気づかない別の姿をしているが、恂子は一人納得した。
いや、モカの由美もまた、瞬間にしてそれが岡田と分かったにちがいない。
「だまされてはいけない。
すぐに帰って自分の仕事にもどるのです」
空中に浮かんだ長大な男の言葉とともに、群衆の中に亀裂が走った。
総大使館の秋山登は、自分の集団催眠が破れたことを知り、
さらに力を込めて「ネオムー、ネオムー」と叫ぶ。
しかし、一端覚めた群衆は潮が引くように、ビルから遠ざかっていく。

(GOOのメンバーだ)
ビルの60階にいた、NO4の思念が怒りに燃えた。
「あれが岡田ね」
NO3の女が、
先頃グリーンクラスの部屋まで交渉に来たと報告があった
男の名前を口にする。
声に敵対する者にはあり得ない情感がこもっていた。
(すぐに手を打ちます)
NO4が女の返事を待たずに姿を消した。

空中にいる長大な男の姿が、ゆがみはじめ、10秒ほど振動して消えた。
入れ替わるように、60階の紫色の霧の中に、男の姿がにじみ出た。
岡田である。
一瞬遅れて出現したNO4の瞳に、
入れるはずのない部屋に侵入した男の姿に目を見張っているNO3の
すさまじいばかりの妖艶な姿が、写ったであろうか。
岡田に触れられたNO4は無数の光の粒子となって分解した。
「すばらしいわ」
NO3の女は目の前で消滅したNO4のことなど、
まったく忘れてしまったかのようにささやいた。
同時に部屋全体が火柱を上げる。
岡田と女はいつの間にか噴火する火口の真上にいた。
火砕岩が次々と吹き上がる。
電荷をあびた粒子が放電し、
激しく白い稲妻となって、岡田の身体を貫通した。

43

・・・・・
(カムチャツカだな)
岡田の落ち着いた思念をを受信した NO3の心は硬直した。
油断していたとはいえ、
念動力では極東随一を誇るNO4を一瞬のうちに消滅させ、
今又彼女が発生させたイメージの実体化を無にしていまった男。
GOOのメンバー岡田遥之の力量に戦慄したのである。

「帝国は間違っている」
噴火する火山は消え、静寂を取り戻した室内に岡田の肉声が響いた。
「私たちは信じているのです」
「信ずることは自由だ。だが、それをすべての人に押しつけてはならない」
「正しいと信じたことを広めるのは正しいことです」
彼女も一歩も引かない。
凄絶な色気が発散した。
(しかたがあるまい・・・)
岡田の静かな嘆きの思いに、NO3の身体が呪縛された。
「ムゥ・・・・・」
だが、短く声を上げたのは岡田自身であった。
彼は自分の後ろから羽交い締めにしている不可視の部分からあがる、
白い煙と、霧の中に滲んでいく女の姿を同時に見ていた。
空間がきしんだ。
そこにはもう人影はない。
ただ周囲2メートルに発生したマイナス273度の極超低温のなかに、
紫水晶のように輝く霧の結晶が散っているのみであった。

戦い最終章、44~45へ続く)

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NO 231

戦い

40

テレビなどに反応がないのは当然であった。
それは、中央政府ビルをはじめ、帝国のビルに関連する場所にしか、
カメラがセットされていなかったからであった。

轟音とともにアイスランドのヘクラ山が火を吹いた。
それは次々と噴火を繰り返し、
長さ30キロにわたる、数十カ所の割れ目噴火となった。
近くのラーキ山、ツルツェイ島も誘発されて火柱を上げ、
噴煙は25000メートルに達した。
耳をつんざく噴火音に、失神する者さへでて、
アイスランドはその名にふさわしくない火の島と化した。

また、レイキャビク沖8キロでは、
水蒸気爆発をともなって、海底火山が噴火し、
噴石と灰は首都を死の街に変えた。
連続する噴火は、まるで前日からレイキャビクで、秘密に会談していた、
米ソの外相を狙ったような爆発で、
事実二人は命に別状はなかったものの、
それから一週間の間、
会談の場になったホテルに、孤立させられたのである。

ほぼ同時に世界各地でも同様な噴火が起こっていた。
アラスカのカトマイ、カムチャツカのクリュチェフ、フィリピンのタール、
イランのダマバンド、それにイタリアのベスビオである。
イギリスのスノードン、フランスのモンドール、
アメリカ東部のミッチェルなど、
活動していなかった山までが、火を噴いた。
それはすべて国連側の国々にある山であり、
世界最大の火山地帯であるはずの、
ネオムー帝国同盟国の活火山は沈静していた。
各火山の噴煙は成層圏で合体し、
前日の放射能雲のチリを巻き込みながら、地球を取り囲んでいった。

41

「これはほんの小手調べにすぎない。
国連をすぐに滅びる。御前にひざまずき、伏して救いを求める者にのみ、
神は手をさしのべるであろう」
アジア総大使館のスポークスマン秋山登は、
神の裁きの前に救いを求めて集まってきた何万という群衆に向かって、
ビルの10階から自動的にせり出した、バルコニーの上から語った。
八角形のビルの壁面が、強力なスピーカーの役目をはたし、
取り囲んだ群衆に秋山の声が響き渡った。
「もはや一刻の猶予も許されない。
日本は直ちに帝国の傘下に入り、神に救いを求めなければならない」
群衆の間からどよめきの声があがり、
やがてそれが一つの意味のある言葉に収束した。
「ネオムー、ネオムー!」
秋山は脇から女性が手渡した、帝国の国旗を、
両手で高々と振りあげ、自らも大きな声で叫んだ。
「ネオムー、ネオムー!」

中継のテレビがその姿をアップにする。
「オイ、ありゃ理佳じゃねェか」
編集部でテレビを見ていた一人が言った。
秋山の陰に一歩下がって控えている女性を、カメラの端が捉えている。
「ほんとだ、理佳だぞ」
恂子も画面に見入った。
そのすらりとした上背はまさしく理佳であった。
(あの人が彼だったのね)
恂子は、岡田が理佳の送別会で、
俺たちはまた出会うことになるだろうと、言った言葉を甦らせていた。
理佳が彼に紹介するからと誘った時、
素直についていけなかった気持ちと、
楽しみにしていた結婚式の案内状が来なかった理由を、
恂子は同時に悟っていた。
理佳はネオムー帝国側の人間として、
バルコニーに立っているのである。

(戦い42~43へ続く)

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NO 230

戦い

38

「あと1時間か・・・」
世界の何処かで誰かが言う。
まるで、人類を代表するように・・・。
恂子も美雪も、岡田も由美も、
そして曲立彦も、みな同じ思いでその時を待っている。

30分前。
ネオムー帝国側には何の動きもなく、
ただ中央政府ビルだけが、周囲の焼け野原の中に、
強く、その存在を主張している。

15分前。
「おかしい」
国連軍統合参謀本部長が言った。
片側の壁全面に取り付けられたスクリーンに写る、
帝国中央政府ビルは沈黙している。
本部長が口に出した言葉だけが、静寂の中にむなしくエコーした。

10分前。
曲立彦は、コンピュータ解析室のスクリーンをじっと見つめていた。
一様に押し黙った職員たちの息遣いが緊張感を伝える。
(所長は、今度も何が行われるのか知っているにちがいない)
曲はそう思った。

39

5分前。
編集部に残った4人は、テレビを囲んで息をひそめている。
恂子は画面を見ながら、どうしても阿井のことを考えてしまう。
岡田がのっそりと入ってきた。

3分前。
「アジア関係では異常がないだろうな」
アジア総大使館のNO1が肉声で問うた。
「破の舞い第3段階開始3分前」、異常なし」
コンピュータが即答した。

2分前。
モカの由美は、たった今までそこにいた男のことを、
もう恋しく思っている。

1分前。
グレートロンリー伯爵の目が光った。

30秒前。
中央政府ビルをはじめ、他の六つのビルの周囲で、
すべてのカメラが回り始めた。

4月1日午前0時。
画面には何の変化もなかった。
世界中に吐息が満ちた次の瞬間、
異変が起きた。

(戦い40~41へ続く)

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NO 229

戦い

36

ネオムー帝国は
「世界理想郷宣言に賛同しないばかりか、核によって領土を汚染し、
あまつさえ、住民に激甚なる被害を与えた」として、
国連を、平和の敵人類の敵ときめつけて非難し、
「8時間後の4月1日には、神罰が下るであろう」という、
謎めいた声明を発表した。

槙原恂子は、ほとんどパンク状態の作業のなかで、
どうしようもなく阿井のことを想っていた。
彼とは逢う機会のない日々が続いている。
(私はどうしたらよいのだろう)
阿井もきっと同じ想いでいるのではないか。
どんなに遠く離れていても、どんなにお互いの道がちがっていても、
愛は変わらないことを、恂子は祈る。

(そうだ、動揺してはいけない)
岡田の思念が入ってきた。
(お前はGOOにとって大切な人間であるばかりではなく、
阿井にとって、教団にとっても必要な女性であるにちがいないのだ)
(私には分かりませんわ。
でも、阿井さんに対する気持ちは変わらないというより、
日増しに強くなっているのです)
(分かっている。それは、どんなことがあっても、たとえ別れることになっても、
変わることはないだろう。
GOOもムーもない、等しく人間として大切な愛なのだから)
恂子は岡田に励まされてようやく気分が落ち着いてきた。
またパソコンに目をむける。

「先輩、今日は徹夜になりそうですね」
隣で美雪が言った。
ネオムー帝国が4月1日に神罰が下ると、
時間まで指定してきてからというもの、
月刊GOOは、全スタッフを出社させて、
水道橋のアジア総大使館ビルの周辺と、
全国にちらばる擁護団体に、ぴったりと張り付いていた。
編集部には、恂子と美雪のほかには、
岡田と二人のスポーツ担当記者がいるばかりであった。
「あと4時間か」
いつもジョークをとばしながら大声で話しているスポーツ記者も、
今日ばかりは静かであった。

4月が目の前だというのに、いっこうに温かくならない東京は、
今日もみぞれが降りそうな寒さである。
岡田が立ち上がった。
彼には今までのすべてのいきさつが解明済みであった。
(だが、神罰とは、いったい何であろうか)
由美の笑顔を甦らせながら、岡田の頭脳の一端が考えていた。

37

「ママ、いったいどうしたんだい」
急にそわそわと豆を挽き始めた由美に、カウンターの客がいった。
「大切な人が来るのよ}
「えっ、俺だけじゃないのかい」
「そう、お客様はみな大切なのよ」
由美はニコニコしながら答える。

モカのドアを開けた岡田は、
漂ってくるコーヒーの香りに満足そうに目を細めた。
定席につくと、例によって由美が形ばかりのオーダーに来る。
ドアが開き、一人の男がひっそりと入ってきて、週刊誌を手に取り、
一番ドア側の席に座る。
(内閣調査室にも太田黒の息が浸透したか)
岡田はタバコに火をつけ、
由美に、いつもの男かどうか、確認するよう無言で指示する。
彼女が客に注文を聞いているのを耳にすると、
岡田は徐にポケットから、例の数字のつまった細長い紙を取り出した。
世界各地の情報が瞬時に飛び込んでくる。

「ママ、今度一緒に飲みに行かないかい」
カウンターの客がわざと大きな声で誘っている。
(ひょっとしたら、この東京には、たとえそれが、世界の存亡に関わるとしても、
ネオムー帝国のことなど、どうでもよい人が多いのかもしれないわ)
由美はサイフォンの上部に上がってきたコーヒーをかき混ぜながら、
ふと、思った。

時は確実にすぎていく・・・。

 (戦い38~39へ続く)
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NO 228

戦い

33

GOOによる教団との接触はことごとく失敗に終わり、
グレート・ロンリー伯爵は、
国連側の意識に与えていた最後の歯止めを解いた。

その日のうちに世界六カ所のネオムー帝国大使館は、
国連軍の激烈な攻撃をうけることになった。
しかし、あの大陸隆起の衝撃にさへ耐えた、
強化オリハルコンの外壁は,
強力な電磁バリアーと相互作用して、傷一つつかなかったばかりか、
帝国側のVTOLによる、俊敏な反撃によって、
国連側は損害を増す一方であった。

アジア総大使館も国連機に取り囲まれ、
爆弾やロケット弾の集中攻撃を受けたが、
着弾の前に,
漆黒のビル全体がまばゆい光を放つと、
爆弾はおろか、爆撃機までが、アメのように軟化し、
自ら火を噴いて落下していった。

そして3月30日、
国連はついにネオムー帝国中央政府ビルに対して、
核のの使用を決議し、
帝国に向けて降伏しない場合は、24時間後に核攻撃を行うという、
最終通告を発したのである。

帝国の同盟国は国連を激しく非難し、核攻撃の撤回を迫った。
一方帝国側は、指定の時間になっても、
降伏はおろか、一切の譲歩表明もなく、
「どうぞ、おやりなさい」とでも言うように、沈黙を守っていた。

34

3月31日。
帝国領海線下の海中にいた原潜から、
ついに弾道ミサイル(SLBM)が射出された。
やってみればあっけないほど簡単なことであった。
最後に赤いボタンを押せばいいだけなのである。

だが・・・、
帝国中央政府ビル上空1800メートルで爆発した核弾頭は、
1秒後に1平方センチメートルあたり、1000カロリーの熱を放射し、
直径2300メートルの大火球となって上昇した。
ほとんど同時に、圧力値1平方センチメートルあたり、
1.2キログラムの衝撃波が地上に激突し、
そのすぐ後を追うように、
風速140メートルの爆風が放射状に広がっていった。
やがて、火球は、高度5400メートルでキノコ雲を形成し、
爆心点より5.2キロ以内で、
毎秒130メートルのアフターウインドを内側に吹き込みながら、
4分12秒後には、高度28300メートルに達した。

そして1時間後。
強風火炎によって発生した積乱雲は、
キノコ雲と合体して放射能を帯びた黒い雨が降り始めた。
・・・・。

しかし、
徐々に薄れていく雲間から、あの黒い異様なビルが、
何事もなかったように、変わらぬ姿を現したのである。
固唾を飲んで見守っていた、世界中の人々は、
一言もなく、沈黙していまった。

35

(すごいですね)
紫色の霧の中に映し出された、帝国中央政府ビルの映像を見ながら、
NO4が目を輝かせた。
(それにしても、国連はよく踏み切ったものだな)
(しかし、これで計画はずっとやりやすくなりました)
(バカな奴らね。天に向かって唾するとはこのことだわ)

「爆発規模1メガトン級。半径20キロ圏内壊滅。即死者6万人」

(24時間では、避難が間に合わなかったのです)
(まさか本当にやるとは思わなかった連中も多かっただろう)
(それで、こちらの計画のほうは、どのくらい人間が死ぬことになるの)
(水や食料事情、そしてエネルギーから考えて、
10億は死んでもらいたいところです)
(どうせいらない人間ですものね)
女がいともあっさりと相づちを打った。
コケモモのハーブティーを楽しみながら思念を交わす、
天の羽衣教団ヴァイオレットクラス4人のなかで、
阿井だけが沈黙を守っていた。

「破の舞第3段階開始10時間前」
コンピュータの無機質な声が流れた。

(戦い36~37へ続く) 
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NO 227

第21階未来コンサートが過日無事、成功裡に終了しました。
ご協力を頂いた、たくさんの皆様に感謝しお礼申し上げます。

縮小_陸奥


引き津好き「ムーの幻影」をご覧ください。

尚、最初からご覧になる場合は、
上部ボタン「ムーの幻影」をクリックしてください。

戦い

30

3月22日。
ネオムー帝国は、再び全世界の通信網を通じて、
ニュージーランドをはじめとする国連各国の暴挙を非難した後、
衝撃的な声明を発表した。
「ネオムー帝国は世界理想郷宣言に基づき、
本日より、世界各国すべての国が帝国の傘下に入るものとする。
もしこれを拒否する国があれば、世界平和の敵、人類幸福の敵として、
神の裁きを受けることになるであろう」

GOO編集部のテレビからも、
アジア総大使館ヴァイオレットクラスNO4の魔的な声が聞こえていた。
ネオムー帝国は、ついにその真の意向を明らかにし、
全世界に宣戦布告を行ったのである。
それはかつて世界征服を目指した、いかなる国にも類を見ない
未曾有のスケールと狂気じみた大胆さであった。
国連は直ちにネオムー帝国の声明に絶対反対の決議をし、
一度引き上げた英仏軍をはじめ、国連軍を組織して、
ネオムー帝国の領海線を取り囲んだ。
海上には空母、戦艦、駆逐艦、巡洋艦が、海中には原潜が配置され、
効果的な核攻撃が可能な距離を保っていた。
また、
帝国の他の五つの総大使館ビルがある近海にも、
同様な措置がとられた。

31

戦端は意外なところから開かれた。
南アフリカのヨハネスバーグで、
憲法改正と経済格差是正をはじめとする、
国民すべての自由と平等の権利を求める、黒人たちによる大規模なデモが、
ネオムー帝国擁護運動と合体して暴徒となり、
少数派の白人たちを襲撃したのである。

反撃する白人たちとのあいだに、市街戦が展開され、
南ア政府は、帝国擁護黒人団体によるクーデターであるとして、
軍隊を出動させた。
何百人という黒人が惨殺され、
南ア軍は勢いに任せて、戦線を拡大していった。
だが、突然上空から現れた、
ネオムー帝国のVTOLから発射された熱線によって、
南ア軍は瞬時に焼き尽くされてしまったのである。

ここに至って南ア政府は、帝国との同盟関係を破棄し、
ケープタウンの住民に避難命令を出した後、
ネオムーのアフリカ総大使館に、戦闘機と戦車による攻撃を開始した。
しかし、それらの攻撃は、
ビルの外壁にさへ傷一つつけることができなかったばかりではなく、
VTOLの反撃によって、すべての戦車が炎上し、
戦闘機は6機中2機は撃墜された。

政府は直ちに国連に援助を要請、
沖合に待機中の英国戦艦は、国連の名の下に艦砲射撃を行った。
しかし、これもまた、ビルに着弾する前に強力な電磁バリアーによって、
進路をねじ曲げられ、
いたずらに他の建築物を破壊したに過ぎなかった。
翌日国連軍は無人と化したケープタウンのビルに、空爆を開始した。
みるみるうちに焼け野原となっていく街から、爆撃機が去った後には、
一つ黒く異様なビルだけが、天をついて屹立していた。

32

ネオムー帝国アフリカ総大使館ビル44階。
二人の男が向かいあっていた。
外側の戦闘も、ここでは全く影響を及ぼさないらしく、
淡い緑色の光線のなかには、別世界のような、静けさが漂っている。

「それでは、国際超常現象会議の決議は、
何一つ受け入れるわけにはいかないと言うのですね」
この男、GOOの使者、サー・ウイリアムズは、
教団のグリーンクラス以上でなければ入れないはずの44階に、
こともなげに座っていた。
話し合いの結果如何によっては、
全世界規模の戦争に発展するかも知れないことを考えると、
信じられないほど柔和な白い顔と、
育ちのよさそうな、静かな口調であった。

「世界平和のためですから・・・」
相手の男、グリーンクラスの語尾がかすれた。
いままで、意のままにしていたマインドコントロールなどは、
全く通じない。
彼が、ほんとうにそう想っていたからこそ言えたのである。
「そうですか。残念ですが仕方がありませんね。
それでは失礼いたしましょうか」
このビルに最初に迎えた異質な客が立ち上がった。

(戦い33~34へ続く)

 

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NO 226

戦い

27

国連と、ネオムー帝国による攻撃は、この1回ずつに終わり、2日が過ぎた。
中央太平洋からニュージーランドにかけては、一触即発の危機を孕み、
すべての国々が成り行きを見守って緊張していた。
日本は同盟国として「ネオムー帝国を擁護すべきである」という、
太田黒首相の強い姿勢があったものの、
いままでのいきさつから、アメリカとの必要以上の摩擦は、
北方におけるソ連の脅威とも関連して、避けるべきだとする、
党内長老をはじめ、多数の意見が根強く、
国家としての態度を一時留保していた。

帝国のアジア総大使館は、そんな政府の対応を生ぬるいと非難し、
連日のようにビルの周りに集まる群衆に対して、
さらに強く世界平和と人類の幸福をアピールしだした。
帝国擁護を叫ぶデモや集会は、全国各地へ広がり、
大きな集会のある場所には、必ずといってもいいほど、
スポークスマンの秋山が顔を出し、
彼の現れる所は、常に大群衆が押しかけて、
いやがうえにも盛り上がっていた。

月刊GOOの編集部では、
編集長の岡田遥之が国際超常現象会議に出席のため、
ロンドンに出張しているので、デスクの山崎がスタッフを動かしていた。
シドニーへ行った3人の他に、超常現象担当から4人、
スポーツ娯楽担当から回してもらった3人、
それに恂子と美雪をいれた計12人が、
ネオムー帝国関係の取材に奔走していた。
恂子は次々と入って来る情報をもとに、
原稿用紙をうめながら、
あのとき阿井が「行かなければなりません」と言った理由を考えていた。
(この戦いのためなんだわ)
そして、岡田もいない。

28

ロンドン・・・。
それはGOOの本部所在地である。
国際超常現象会議とは、何の目的で、どんな人たちが集まるのだろうか。
それは、表面上はともかく、世界的秘密結社GOOの会議であった。
岡田はその日本代表である。

会議はたった今、重要な決議がなされたばかりであった。
GOOの最高指導者グレート・ロンリー伯爵は、
83歳という高齢にもかかわらず、会議をよくリードし、
世界理想郷宣言の欺瞞性を指摘した後、
この状態を乗り切るためには、
”天の羽衣教団”の上層部との直接交渉が不可欠で、
場合によっては戦いも辞さないと語ったのである。
そして今、GOOの中心的メンーバーが会議の決議のもとに、
世界6ヶ所の帝国総大使館ビルへ向けて出発していった。

同じ頃、三枝由美もまた、
3日まえに岡田に強く握られた乳房の感覚を蘇らせながら、
彼のことを想っていた。

29

「うるさい奴らですね」
紫色の霧の中に映し出されている、
ネオムー帝国の上空を飛ぶ、各国の偵察機を見ながら
ヴァイオレットクラスNO4が言った。
(一つ力を見せてやりましょうよ)
(しかたがあるまいな)
NO1がアジア地区としての結論を下した。
瞬時に彼は、
現在帝国中央政府ビルにいる枢機卿、”白のお方”に、
その旨を送信した。

その60分後。
中央太平洋フィージー海盆に小さな渦米が発生した。
それは18時間後には、中心気圧890ミリバール、
瞬間最大風速80メートルというハリケーンに成長した。
さらに9時間後、ハリケーンはニュージーランド北島を直撃し、
帝国の空爆から立ち直られないでいたオークランドを
一転して水の都に変えた後、
北西から回り込んでタスマン湾を急襲した。
ウエリントンに集結していた英仏の艦隊は、外洋へ非難の途中、
クック海峡で竜巻に巻き込まれ、3艦が航行不能となった。
ハリケーンはあっという間に通過していったが、
ニュージーランドは激甚な被害を受け、
ネオムー帝国との戦線から離脱したのである。

(戦い30~32へ続く)
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