NO 201

復活

9月中旬を過ぎると、毎日のように起こっているという無感の地震は、
日本ではニュースにならなくなっていたが、
中央太平洋では、相変わらず、微震が続いていた。
今まで洪水騒ぎを起こしていたワシントン島、ファニング島では、
逆に地盤の隆起がはじまって、
9月末日までに全海洋線とも、はぼ1メートル上昇した。
それに歩調を合わせるように、
ポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの島々が
軒並み30センチから60センチ隆起し、
特にフィージー諸島では、7月から9月の9ヶ月間に
2メートル13センチという異常な数値を示していた。

関係国はもちろん世界各国でも、
それぞれの立場から必死に対処しようとしていたが、
そのスピードの異常な早さから、データ分析が追いつかず、
ただ口を開けて見守っている観があった。

槙原恂子は、先ほど曲立彦から届いた
「エルニーニョに関する報告書第7」の要旨に目を通していた。
海面水温は例年より8度の上昇になっている。
アラスカでは、氷河が後退し、
あまつさえ南極の氷が緩みだして、一部が割れ、漂流を初めている。
今や、各国はその主義主張を超えて協力し、
真剣に対処していかなければならないと結んでいた。

右手のドアが開いて、スポーツ娯楽担当の連中が、ドヤドヤと入ってきた。
「工藤と森下は順当なところだろう」
「ええ、それに日系3世の王も学生ながら、
たびたびこの方面の紙上を賑わしていますから、分かるとして、
阿部というのは聞いたことがありません」
「青森県出身50歳とあるが、・・・まったくの未知数だ」
相も変わらず大きな声だ。
今日は雀聖戦の準決勝があり、上位4人が決定している。
世界中が動揺し、島々が沈みかねないというのに、
麻雀に命を賭けている人もいる。
7月の地震の時、室内のことはさておき、
取材に行けと怒鳴った山崎のことを思い出す。
人はその立場立場で、
ともかく、当面やらなければならないことを、やっているのだ。
(きっと彼らにとって、麻雀が今やるべきことなんだわ)

ペンダントに手がいく。
最近は、、毎日の練習によって、
10メートルほどの範囲なら、これはと思う人に集中できるようになり、
恂子はちょっと得意になっていた。
今日も近い人から探っていく。
大川の気持ちが一番強い。
大声で腹が減ったと叫んでいるようなものだ。
デスクの山崎を越えて、編集長の岡田遥之の方へ意識を進めていった。
(わからないわ・・・)

今日だけではなかった。
岡田の心だけは、どうしてもつかめない。
ぼんやりとした、
灰色のスクリーンのようなものを感じるばかりである。
(何故かしら・・・)

恂子は目を開いて岡田の方を窺った。
相変わらず机の左側に足を上げ、茫洋とした顔は紫煙にかすんでいる。

(やはり、そうなのかも知れないわ)
岡田はいつも自分たちの先を行っている。
アイスコーヒーが飲みたいと思っていると、岡田から電話がくる。
みんなでモカへ押しかけると、コーヒーが待っている。
それは今、自分が美雪にしていることと同じではないか。
(きっとそうだわ)
岡田には自分と同じ力(パワー)があるにちがいない。
有頂天気味になっていた恂子は、ゾクリと身体をふるわせた。

どうしても岡田の心は読めない。
そうしてみると、岡田はいつもみんなと一緒にいるようで、
どこか遊離しているところがある。
いや、自分からそれを求めているようにさえ見える。
(自分のパワーをコントロールしているんだわ)
恂子は岡田に対して、
前にも増して畏敬の念が沸き上がってくるのを感じる。
とすれば、自分にこの力を与えてくれた阿井真舜も、
岡田と同族ということだろうか。

(復活3~4へ続く) 

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