戦い
7
天の羽衣教団の記者会見は、
教団ビルのある、他の5ヶ国でも同時に行われていた。
これに対してポリネシア、メラネシア、ミクロネシアの国々は、
即日独立を認めたばかりではなく、
その傘下にはいりたいという意向を明らかにした。
彼らの論拠はきわめて明快で、
自分たちはムーの子孫であるという一言に尽きた。
しかし、その海域に島々を領有する
英、仏、ニュ-ジーランドなどの国々は、
勝手に領土を主張するネオムー帝国なるものは、
重大な侵略行為をしているとして、
グァムとウエリントンに空母をはじめとする艦隊を進行させた。
その間ネオムー帝国は、フィージー諸島ごと隆起した
30万平方キロに及ぶ最大の陸地に、次々に大型のVTOLを飛ばし、
資材を運び込んでいた。
各国の偵察機や報道陣からの情報によると、
今までの6ヶ所のビルと同型のものを建築する模様である。
そしてその頃から、
各地教団ビルのテラス状の場所に頻繁にVTOLが発着し、
教団の人間が多数現地と往き来しているのが認められた。
その後も、教団側との接触はまったくなく、
現地においても、各国の報道機の着陸はすべて拒否され、
眼下に建築されていくビルを、口を開けて眺めている状態が続いていた。
そんな時、無為無策に焦れた英国BBCのチャーター機が、
建築現場に近い場所へ接近しようと突っ込んでいった。
だが、高度500メートルまで降下した機は、
何かの障壁にあって軽く跳ね返され、失速しそうになって、
慌てて上空に逃れたのである。
ネオムー帝国は世界各国に対して、
再度このようなことが起こった場合は、
我が国に対する重大な挑戦とみなし、
何らかの形で制裁せざるを得ないと警告した。
8
月刊GOOの編集部は、
刻一刻と変化する情勢に息つく間もない多忙な日々が続き、
正月恒例の”予言の刻”も、無期延期になっていた。
槙原恂子はネオムー帝国独立宣言の取材をきっかけに、
エルニーニョ関係から離れ、弥次喜多コンビと美雪をふくめた、
ネオムー帝国関係専門スタッフとして、会議室に顔をだしていた。
「デスク、帝国の独立宣言後、まだ10日しかたっていないのに、
中央太平洋の国々ばかりではなく、
エルサルバドル、コスタリカ、エクアドル、ペルー、
それに教団ビルのあるチリの5ヶ国が独立を承認しました」
恂子は資料をチェックしながら続ける。
「そのうちコスタリカ、ペルー、チリは、
時期を新たにして同盟を結びたいといっています」
「ウム、そしてたった今、ハワイがアメリカ合衆国から離れて、
ネオムー帝国の傘下にはいりたいと表明した」
「しかし、アメリカだって黙ってはいないでしょう」
小山が口をはさんだ。
相変わらず小さな声だが、妙に迫力がある。
そうでなくてもグァムやウエリントンでは、
英、仏、ニュージーランドの艦隊が集結して、
不穏な動きを見せているのだ。
態度を保留していたアメリカ合衆国は、
これを機にネオムー帝国の独立に非承認の意向を明らかにし、
ハワイに対して声明の撤回を求めたのである。
(戦い9~11へ続く)