戦い
5
二重の自動ドアを通り、ロビーに入ると、
三大新聞をはじめ、各テレビ局の取材陣が多数たむろしている。
会場に指定された3階の第一会議室で待っていると、
正午前、財団理事長の古谷と、常務の大沢が現れた。
うるさかった場内が嘘のように静まる。
前方の会見席についた二人は、
しばらく記者たちを見回していたが、
時計を見て頷き合い、まず古谷が立ち上がった。
「天の羽衣教団は、本日正午をもって、
中央太平洋に隆起させた陸塊群を固有の領土とし、
ここに、独立を宣言するものである」
古谷の声音にはよどみがなく、
会見の弁などは、一切省略されている。
「国名は”ネオムー帝国”である」
フラッシュが一つ上がり、続いて白光が入り乱れた。
しばらく声を失っていた場内のあちこちから、
”ネオムー”を繰り返す言葉や、
「なんだそりゃ」という声が飛び交う。
「以後いかなる国も
ネオムー帝国の領土近海50海里以内に入ることを禁ずる」
古谷は記者団を見渡し、威圧するように続けた。
「世界各国は速やかに、
ネオムー帝国の独立を承認するものと期待している」
記者団側は騒然となった。
あちこちから質問の矢が飛ぶ。
「帝国というと、代表者は皇帝ですか」
「もし、陸塊群をそちらの領土と認めない場合はどうなさるのですか」
「主張する領海に他国の船舶が入った場合はどうですか」
つわものたちが矢継ぎ早にまくし立てた。
6
大澤が答える。
ネオムー帝国は女王の国である。
女王は目下不在だが、4人の枢機卿の合議によって国事がなされ、
現在ある六カ所のビルがそれぞれの地区の総大使館を兼ねるという。
「アジア地区では、古屋が総大使、
私、大沢が、日本におけるネオムー帝国の大使の役割を担いますので、
よろしくお願い致します」
大沢が深々と頭を下げた。
「先ほどのご質問ですが、
不当に我が国の領土が侵犯されることがあれば、
当然報復することになるでしょう」
大沢はやわらかいが断固とした調子で言い切った。
記者団も黙っていない。
「その陸塊群に領土権を主張する根拠は何ですか」
前から2列目の男が立ち上がって言った。
「それは、われわれネオムー帝国が築き上げた領土だからです」
「ということは、先ほどの宣言にあったように、
隆起させて得た領土だということですね」
「そのとおりです」
大沢の答えに記者席からは、言葉にならないうなり声があがった。
今まで世界中を騒がし、多数の死者をだした、異変や事件は、
すべて、天の羽衣教団(ネオムー帝国)の意図によるものだと
公表されたのである。
それについての大沢の弁は、
なんと人類全体の幸福のためだと言うのだ。
ネオムー帝国はその大きな目的のためにこそ、
独立するのであるから、多少の犠牲はやむを得ないし、
独立を承認しないということは、
世界平和に背を向けるものであると断定した。
よって各国は
すみやかに、ネオムー帝国の独立を承認すべきであると結んだ。
最後に大沢大使は、ネオムー帝国の国旗を披露した。
旗の表面には、
アマランサスの扉に付いていたレリーフと同じ
太陽の紋章が、くっきりと浮かび上がっていた。
(戦い7~8へ続く)