NO 207

東京TW2表
チラシ2版

今回、上記のように、
東京タワー文化フェスⅡに出品する仕儀に至りました。
お時間がありましたら、お運びくだされば、幸いに存じます。

復活

13

「破の舞進行中。ガス移動順調。計画領域浮上予定どうり」
コンピュータの声が聞こえていた。
それは、誰のために語っていると言うわけではない。
定時の報告であろうか。
この部屋、教団ビル60階の紫色の霧の中には、人影はおろか気配さえない。

2階下、58階にもその声が流れていた。
ここも紫色の霧がたなびき、たくさんの書物らしいものが山積みにされている。
それは単に書物というだけではない。
石版、粘土板、金属板、竹筒をはじめ、
羊皮紙やパピルスなど、ありとあらゆる書物と言ったほうが良いかもしれない。
そしてそのほとんどは、触れればすぐに崩れてしまいそうな年代を感じさせる。
世界中のマニアが、
どんなことをしてでも手に入れたいと願っている、古文書であった。

霧がわずかに発光し、書物の山の中心に、長身の男の姿がにじみ出た。
阿井真舜である。
彼はすぐに、一つの石版を取りあげてじっと見つめ、
よし、というように次の石版に手を伸ばす。
彼は今、未来のムーのあるべき姿を創造しているのである。
古代ムー帝国は言うに及ばず、可能なかぎりの時を翔んで、古文書と照合し、
その事実に基づいて新しいムーを設計しているのである。
いや、ムーをふくむ全世界といったほうが良いかも知れない。
その中には、政治、経済、文化、科学、芸術、そして宗教に至るまで、
あらゆる分野の未来像が包含されていた。
その意味で彼は、神の領域にまで踏み込んでいるのである。
彼の思考が一瞬変化し、その手がすこし脇へそれれば、
世界は、まったくその様相を異にするであろう。
文字どうり、一瞬も気が抜けない作業であった。

14

「破の舞進行中。強化オリハルコン注入開始」
(始まったか)
阿井は作業を続けながら同時に思っていた。
遠い祖先の残した偉大な遺産。
”オリハルコン”
それは現在教団の科学力によって、真空中で量産され、
他との合金も可能になったことから、
教団ビルの外壁など、あらゆるものに応用されていた。
そして今、崩れたガスチェンバーを再生しながら浮上しようとしている、
岩盤の再生触媒および接着剤として、
ゾル状の強化オリハルコンが注入されたのだ。

その時、阿井の超感覚は別の波動を捉えていた。
槙原恂子の呼びかけである。
彼は未だ彼女との心の回路を開いていない。
アマランサスで彼女の体内に眠るマグマを感じた時、
阿井は瞬間に未来を観ていた。
それは、彼女が相対する側にいるという条件を超え、
阿井や教団だけに留まらず、人類全体にとって大切な存在であるとみえた。
だから恂子とは、個人的な感情と別の次元でも、
優しくしかも厳しく接していかなければならないと思った。
(彼女なら大丈夫だ)

槙原恂子に関して、
相対するはずの阿井と岡田にもかかわらず、
奇しくも同じ見方をしている。
しかし、その存在が何故大切なのか、
それは二人にも、まだはっきりと分かっていないのである。

(復活15,16,17へ続く)

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