NO 230

戦い

38

「あと1時間か・・・」
世界の何処かで誰かが言う。
まるで、人類を代表するように・・・。
恂子も美雪も、岡田も由美も、
そして曲立彦も、みな同じ思いでその時を待っている。

30分前。
ネオムー帝国側には何の動きもなく、
ただ中央政府ビルだけが、周囲の焼け野原の中に、
強く、その存在を主張している。

15分前。
「おかしい」
国連軍統合参謀本部長が言った。
片側の壁全面に取り付けられたスクリーンに写る、
帝国中央政府ビルは沈黙している。
本部長が口に出した言葉だけが、静寂の中にむなしくエコーした。

10分前。
曲立彦は、コンピュータ解析室のスクリーンをじっと見つめていた。
一様に押し黙った職員たちの息遣いが緊張感を伝える。
(所長は、今度も何が行われるのか知っているにちがいない)
曲はそう思った。

39

5分前。
編集部に残った4人は、テレビを囲んで息をひそめている。
恂子は画面を見ながら、どうしても阿井のことを考えてしまう。
岡田がのっそりと入ってきた。

3分前。
「アジア関係では異常がないだろうな」
アジア総大使館のNO1が肉声で問うた。
「破の舞い第3段階開始3分前」、異常なし」
コンピュータが即答した。

2分前。
モカの由美は、たった今までそこにいた男のことを、
もう恋しく思っている。

1分前。
グレートロンリー伯爵の目が光った。

30秒前。
中央政府ビルをはじめ、他の六つのビルの周囲で、
すべてのカメラが回り始めた。

4月1日午前0時。
画面には何の変化もなかった。
世界中に吐息が満ちた次の瞬間、
異変が起きた。

(戦い40~41へ続く)

カテゴリー: 定期更新   パーマリンク

コメントは受け付けていません。