戦い
38
「あと1時間か・・・」
世界の何処かで誰かが言う。
まるで、人類を代表するように・・・。
恂子も美雪も、岡田も由美も、
そして曲立彦も、みな同じ思いでその時を待っている。
30分前。
ネオムー帝国側には何の動きもなく、
ただ中央政府ビルだけが、周囲の焼け野原の中に、
強く、その存在を主張している。
15分前。
「おかしい」
国連軍統合参謀本部長が言った。
片側の壁全面に取り付けられたスクリーンに写る、
帝国中央政府ビルは沈黙している。
本部長が口に出した言葉だけが、静寂の中にむなしくエコーした。
10分前。
曲立彦は、コンピュータ解析室のスクリーンをじっと見つめていた。
一様に押し黙った職員たちの息遣いが緊張感を伝える。
(所長は、今度も何が行われるのか知っているにちがいない)
曲はそう思った。
39
5分前。
編集部に残った4人は、テレビを囲んで息をひそめている。
恂子は画面を見ながら、どうしても阿井のことを考えてしまう。
岡田がのっそりと入ってきた。
3分前。
「アジア関係では異常がないだろうな」
アジア総大使館のNO1が肉声で問うた。
「破の舞い第3段階開始3分前」、異常なし」
コンピュータが即答した。
2分前。
モカの由美は、たった今までそこにいた男のことを、
もう恋しく思っている。
1分前。
グレートロンリー伯爵の目が光った。
30秒前。
中央政府ビルをはじめ、他の六つのビルの周囲で、
すべてのカメラが回り始めた。
4月1日午前0時。
画面には何の変化もなかった。
世界中に吐息が満ちた次の瞬間、
異変が起きた。
(戦い40~41へ続く)