NO 254

エピローグ

一時の喧噪が過ぎて、編集部には、つかの間の怠惰な時間が流れていた。
「なかなかいい出来やな」
大きな信楽の灰皿の、盛り上がった吸い殻の上に、
さらに灰を積み上げながら、
刷り上がったばかりの、
月間GOO特集号のページをめくっていた岡田が言った。
恂子と深雪、そして取材中のスポーツ娯楽担当記者をのぞいた全員が、
岡田のデスクの周りに集まってきた。
特に目を引くのは、蝶の形に浮かび上がった陸塊群と、
火柱を噴き上げて今正に沈み込もうとする、ネオムー帝国最期の姿である。
一方は優雅で美しく希望に満ち、
もう一方は凶暴な激しさの中に、言いようのない悲哀を漂わせていた。

「すごいわね、どうしてこんなアングルから写真が撮れるのかしら」
深雪が感動したように言った。
「それに、激しさのなかにも、心をうつ情感がにじみ出ているわ」
恂子が付け加える。
「藤守良にとっては、すべてが命をもっているのだ。
そのものの生の息吹をフィルムに感光させているのだ」
岡田が解説する。
「社をやめたら、もう良ちゃんには会えなくなりますね」
深雪がしみじみと言った。
「フフフ、お前は、きっと又、良に会うことになるだろうよ」
岡田にしては、珍しく饒舌である。
「あのネオムー帝国が、こうもあっさり滅びるとは考えもしませんでした」
「おごれる者は久しからずさ」
小山の言葉に大川がすぐに反応する。
「しかし、天の羽衣教団は、
苦しみからの解放と、人類の平和を、その教義にしていたんですよ」
「それぞれが良いと思ってしたことでも、悪を生むことがあるのだよ」
岡田の言葉が合図のように、
各自、自分の席に戻り始めた時、
扉が開いてスポーツ娯楽担当の連中が、ドヤドヤと入ってきた。

10

「おどろいたなぁ、ぶっちぎりだぜ」
「ほんとだ、青森の阿部が優勝するとは、まったく予想外だった」
相変わらず大きな声だ。
「雀聖戦決勝が終わったのね」
深雪が言った。
(阿部は覚醒したのだ)
岡田が机に両脚をあげながら、チラリと恂子を見た。
(良ちゃんもですね)
(そうだ、そして今に深雪もな)
(仲間が増えているのですね)
(そして皆お前に注目するだろう。
お前は人類の夢なのだ。新しい夜明けをつくるのだ)
「新しい夜明け・・・」
思わず恂子は声をだした。
手が腹部に触れていた。

電話が鳴る。
岡田は、やおら両脚を下ろし、受話器を取る。
「そうか、やはりな」
小さい声が聞こえた。
デスクの山崎を呼んで、何か指示を与えた後、大股に部屋を出て行く。
「仕事だ、仕事!」
突然山崎が怒鳴った。
「んもう、いやになっちゃうわ」
深雪がふくれる。
「リスボンとケープタウンで、
残されたネオムー帝国のビルが崩れ落ちたそうだ。
弥次喜多コンビは、すぐに現地に飛んでくれ」
二人は、はじかれたように立ち上がった。

編集部には再び騒然とした活気が戻り、
岡田のいない机の上で、閉じられた特集号の、水色の表紙が、
赤の題字を主張していた。
”ムーの幻影”
夏の強い陽射しの中であった。

・・・完

(22ヶ月にわたり、ご愛読くださいまして、誠にありがとうございました。
感想などいただければ幸いに思います。
尚、最初から続けてご覧になる場合は、
上部、SF小説「ムーの幻影」をクリックしてください。)

 

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