NO 253

エピローグ

”予言の刻”を終えて帰ってきた槙原恂子は、
郵便受けに入っていた封書を見て、思わず声をあげた。
「良ちゃんからだわ}
裏に、シドニーにて、良と書いてある。
部屋に入って封を切った。
写真が入っている。
振り袖を着た恂子の後ろ姿であった。
(おの時のだわ)
前回の予言の刻の会場で、
後ろから閃いたストロボの光を思い出す。
添えられた1枚の便箋にただ1行、
「いつぞやの写真が出来ました」とだけ、
太い大きな文字で書かれている。
だがその余白には、万感の思いが封じ込められていた。
彼はずっと自分の胸に、その写真を持っていたのだ。
恂子の後ろ姿を・・・
恂子はその時、藤守良がそうであったように、
彼のあるべき姿を悟っていた。

写真をしまって机上に目を移す。
そこにも写真があった。
ネオムー帝国の旅立ち以来、
恂子が大切に飾ってきた阿井の姿である。
気がつかないうちに撮られたのか、別の方向を向いている。
いや別のことを考えているのだ。
恂子は、それが何となく自分のことを考えているようで、せつない。
「阿井さん・・・」
想いが宇宙に至り、ひとりでに言葉が出た。
お湯を沸かし紅茶を淹れて、
戸棚にとっておいた手作りのクッキーを添える。
「どうぞ」
恂子は阿井の写真にニッコリ笑って椅子に腰をおろした。

髪の毛がかすかに揺れた。

まるで本当に阿井がいるかのように振る舞っている恂子には、
その時部屋が微妙にゆがんだのに気づくはずもない。
紅茶を一口含むと、初めて”羽衣”で飲んだ懐かしい味がした。
頭の中で弱音の弦がトレモロする。
(どうして・・・)
自然に阿井の写真に目がいった。
「あつ!」
たったいままでそこにあった写真がない。

「久しぶりの味でしょう」
愛しい人の声がささやきかけ、目の前にその姿がにじみ出た。
「・・・」
瞳を大きく見開いて、
目の前の阿井の姿を見つめている恂子は、声もでない。
そんな彼女の目を、やさしくのぞき込んで、
阿井はゆっくりと、自分のためにテーブルに置かれたカップを取りあげる。
「私たちは今、太陽系を離脱しようとしています。
もうすぐスバルへの第1小ワープに入ります。
そうなれば私の時間移動の限界を超えてしまうのです」
「・・・」
恂子は目を見開いているばかりで、まだ声が出ない。

ふと気がついて壁のカレンダーに視線がいく。
5月になっていた。
写真がないのは当然であった。
時間が2ヶ月以上戻っている。
この部屋は彼ら二人と必要な者をのぞいて過去へ転位していたのである。
「最後のお別れに来たのです。もうあまり時間がありません」
阿井は半分ほど飲んだカップを置いた。
二人はどちらからともなく立ち上がっていた。
「・・・ずっとあなとのことを想っていました・・・そしてこれからもずっと・・・」
恂子ははじめて声が出た。
限りなく素直な気持ちの表現であった。
「愛している」
阿井はしっかりと恂子を抱きしめ、
言い尽くすことのできない言葉をくりかえした。
恂子も思いのたけを込めて、阿井の胸にすがった。
その腕がいつの間にか阿井の身体を通り抜けて、
彼女自身の胸を抱いていた。
気がついて机の上を見た。
写真のなかに阿井がいる。
(やっぱりこの時、ほんとうに私のことを想っていたんだわ)
恂子は確信した。
同時に彼女は自分の腹部に新しい生命の鼓動を感じて、
一瞬とまどい、そして自らを強く抱きしめた。

岡田が頭をあげて由美の顔を覗いた。
「どうしたの」
「やはり恂子は、GOOとムーの架け橋になって、
人類を新しく変えることになるようだ」
彼は肩をさすりながら、再び由美の膝の上にに頭をあずけた。
「まだ痛むの」
「ウム、絶対零度の攻撃はきつかったからな・・・」
岡田をまた肩をさすった。

(次回はいよいよ最終回、エピローグ9~10です)

カテゴリー: 定期更新   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>