NO 204

復活

7 

所長室に飛び込みドアを閉めると、曲は大きくせき込んだ。
「まあ、かけたまえと」いう所長の前のテーブルには、
すでにブルーマウンテンが用意されている。

曲は、この研究所に対して疑問を持って以来、
所長の落ち着きはらった振る舞いまでが気にいらなかった。
早く要件を言えばいいものを。「まあかけたまえ」とくる。

曲の内心を知ってか知らずか、
所長はブルーマウンテンに、ゆっくりシュガーを入れてかきまぜ、
目を細めて飲んでいる。
「所長!」
たまりかねた曲は、声を荒げた。
最近のイライラは異常であった。
大学にいたころは温厚でとおっていた曲である。

「先ほど横須賀の海洋科学技術センターから電話があって、
君にぜひ協力してほしいというんだよ」
「はあ?」
「知ってのとおり、日仏海洋機構調査に参加している
”しんかい6500”なんだが・・・」
所長はコーヒーをすすり、上目づかいに曲の顔色を窺っている。
「プレートテクトニクスの
メカニズム解明のためだと聞いていますが・・・」
「そう、それが今度フィージー近海に潜水する予定だそうだ」
「えっ!」
曲はその位置をたった今スクリーンで目にしたばかりであった。
北フィージーは、その中で最も隆起の激しい海域である。
所長は相変わらず他人事のように続ける。
「今回は太平洋における隆起水域と、たまたま同じだというので、
そちらのほうも調査するらしい」
「・・・・・」
「それで、君にね」
「行きます」
所長の言葉が終わらないうちに、曲は立ち上がっていた。

「行かせてください」
曲はあらためて言った。
「まあ君そう興奮しないでかけたまえ」
「いつですか」
曲はたたみこんだ。
立ったままの曲に、
所長はあきれたように左手であごの下を撫でている。
これが部下ならば
「バカヤロウ」と怒鳴りだしそうに、赤くなっている曲の顔を、
所長は楽しんでいるのだ。

(ふざけやがって)
曲は両のこぶしを握りしめた。
所長は残ったコーヒーをゆっくりすすり上げ、
下に沈んだシュガーさえなめそうにしてから、おもむろに口を開いた。
「母船はもうシドニーに入っているそうだ。行ってみるかね」
語尾をひょいと跳ね上げ、またあごの下に手をやってニヤリと笑った。
「行かせていただきます」
「フム」
所長は鼻先で答えて立ち上がった。
もう帰れと言わんばかりの態度である。

(くそ、あんなにじらしておいて、決まった途端の態度はどうだ)
曲は、なぜ自分がこんなにイライラするのかわからないまま、
あの地震以来だと、
ほかに、その原因を求めながら、所長室を出ていった。

(復活9~10へ続く)

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