戦い
1
中央太平洋における突発的な大陸塊の隆起は、
重力に逆らって速度を上げ、海面に顔をだした時には、
秒速5センチメートルにもおよんだ。
押しのけられた海水は沈降部分の島々を、
あっという間に飲み込んでしまった。
近距離にあるオーストラリア、ニュージーランド、
パプアニューギアなどでは、
ある程度の対策がなされていたとはいうものの、
直接上げ潮になる津波のスピードに、
大都市の避難が間に合わず、
次々と襲ってくる、波高20から30メートルの水の壁に、
なすすべもなく翻弄された。
津波はさらに南北アメリカ、カムチャッカから中国に、
そして南極へと同心円状に進んでいった。
しかし、どうしたわけか、7月の地震や津波の時と同様に、
その後勢いがそがれ、各地の被害は意外に小さいものとなった。
日本においても、小笠原諸島でかなりの被害がでたものの、
最終的に三陸海岸に押し寄せた津波は波高4メートルに留まり、
最も心配された東京では、ゼロメートル地帯から
下町の一般民家にかけて、かなりの床上浸水がでたが、
津波の発生した10分後には、もう避難命令を出し、
避難場所や必要物資、食料や医薬品にいたるまでの
対策をたてていた政府の対応の早さによって、
人的な被害を皆無であった。
2
そしてそんな東京が一望のもとに見渡せる
天の羽衣教団ビル60階では、
ヴァイオレットクラスの4人が集まっていた。
「”破の舞”、第一段階終了。羽衣作動停止。領土復活70万平方キロ」
コンピュータの声とともに、眼前の霧の中に一際明るく、
中央太平洋の隆起した陸塊群が映し出される。
(羽衣の威力はすさまじい・・・)
誰かの印象が漂う。
(ところで、オーストラリア近辺はひどかったわねェ)
(ええ、しかし現在我々が持っている科学力では、これが精一杯です。
中和波のタイミングも難しく、とても全体を救うことは出来ませんでした)
(まあ、しかたあるまい。それで大陸全体の復活はいつ頃になるのだろう)
(それは、いつの日か我々の子孫がやってくれるだろう)
上部61階から”白のお方”の思念が降ってくる。
同時に霧の中の風景が一変する。
視点が遠ざかり、太平洋全体が見渡せるようになってから、
白く見えていた浅海全体が隆起しはじめる。
ゴツゴツとした岩だらけの陸塊が徐々に緑をおび、
やがて美しい大陸に変化していく。
(NO2、君のムーをみせてくれ)
(はい)
阿井が答えた。
緑の大陸に、丘が川が内海が生まれ、
神殿を囲んで大きな街並みができあがっていく。
満足そうにみているであろう”白のお方”は、
予定どうり思念を送った。
(”破の舞”第2段階開始)
(戦い3~4へ続く)