NO 215

 戦い

中央太平洋における突発的な大陸塊の隆起は、
重力に逆らって速度を上げ、海面に顔をだした時には、
秒速5センチメートルにもおよんだ。
押しのけられた海水は沈降部分の島々を、
あっという間に飲み込んでしまった。
近距離にあるオーストラリア、ニュージーランド、
パプアニューギアなどでは、
ある程度の対策がなされていたとはいうものの、
直接上げ潮になる津波のスピードに、
大都市の避難が間に合わず、
次々と襲ってくる、波高20から30メートルの水の壁に、
なすすべもなく翻弄された。
津波はさらに南北アメリカ、カムチャッカから中国に、
そして南極へと同心円状に進んでいった。

しかし、どうしたわけか、7月の地震や津波の時と同様に、
その後勢いがそがれ、各地の被害は意外に小さいものとなった。
日本においても、小笠原諸島でかなりの被害がでたものの、
最終的に三陸海岸に押し寄せた津波は波高4メートルに留まり、
最も心配された東京では、ゼロメートル地帯から
下町の一般民家にかけて、かなりの床上浸水がでたが、
津波の発生した10分後には、もう避難命令を出し、
避難場所や必要物資、食料や医薬品にいたるまでの
対策をたてていた政府の対応の早さによって、
人的な被害を皆無であった。

そしてそんな東京が一望のもとに見渡せる
天の羽衣教団ビル60階では、
ヴァイオレットクラスの4人が集まっていた。
「”破の舞”、第一段階終了。羽衣作動停止。領土復活70万平方キロ」
コンピュータの声とともに、眼前の霧の中に一際明るく、
中央太平洋の隆起した陸塊群が映し出される。

(羽衣の威力はすさまじい・・・)
誰かの印象が漂う。
(ところで、オーストラリア近辺はひどかったわねェ)
(ええ、しかし現在我々が持っている科学力では、これが精一杯です。
中和波のタイミングも難しく、とても全体を救うことは出来ませんでした)
(まあ、しかたあるまい。それで大陸全体の復活はいつ頃になるのだろう)
(それは、いつの日か我々の子孫がやってくれるだろう)
上部61階から”白のお方”の思念が降ってくる。
同時に霧の中の風景が一変する。

視点が遠ざかり、太平洋全体が見渡せるようになってから、
白く見えていた浅海全体が隆起しはじめる。
ゴツゴツとした岩だらけの陸塊が徐々に緑をおび、
やがて美しい大陸に変化していく。
(NO2、君のムーをみせてくれ)
(はい)
阿井が答えた。
緑の大陸に、丘が川が内海が生まれ、
神殿を囲んで大きな街並みができあがっていく。
満足そうにみているであろう”白のお方”は、
予定どうり思念を送った。
(”破の舞”第2段階開始)

(戦い3~4へ続く)

 

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