出発
1
明るい爽やかな陽射しの中に4人の男が円卓を囲んでいる。
(フィリピン沖の地震は我々の手によるものではない)
(”破の舞”の最終段階に誘発されたものではないのか)
(それにしては規模が大きすぎる。フィリピン沖だけというのも妙だ)
ザー、ザーと繰り返し音がしている。
4人のすぐそばまで波が打ち寄せているのだ。
はるかに続く白い砂浜の向こうは、パールグリーンの浅海である。
(今までこんなことはなかったな)
(ウム、何か気になる)
「外部汚染地域洗浄処理順調」
コンピュータの声がする。
ここはフイージー大陸塊、
1メガトン級の核爆発にも耐えた帝国政府中央ビルである。
4人がいるのは本当の海岸ではない。
このビル60階の枢機卿室である。
外は放射線汚染によって人間の住めるような環境ではない。
だが、彼らはそんなことをまったく意に介した風もなく、
自然そのままの日光浴を楽しんでいる。
帝国の科学力は、すでに汚染地域を洗浄しつつあり、
内部に至ってはいっさい汚染の影響を受けていない。
「”破の舞”進行中。帝国の傘下国134」
(他の国も、事実上何も出来る状態ではあるまい)
「計画による死亡者2億3900万」
コンピュータが無感動に告げる。
(まあ、こんなものだろう)
(10億と言ったのは、あなたがたの総大使館ですよ)
(彼はちょっと過激なところがあったからな。
だがもう、この世にはいない・・・)
アジア総大使館の「白のお方」、枢機卿NO1の思いがゆれる。
(GOOの急襲でヴァイオレットクラスだけでも5名をうしないました)
(そのことだが、今回のフィリピン沖地震と、
それに続く奇怪な海鳴りも、彼らの手によるものではないのか)
(いくら彼らでも、そこまではできまい)
人種も言葉もまったく異なるはずの4人だが、
意志の疎通にことかくことはない。
2
遠い海鳴りが聴こえる。
コンピュータの発生装置が呼応する。
(発信源はビチアス海淵だそうだが・・・)
(うむ、今頃は我々の誘導で、日本政府が探査に動いているはずだ)
白のお方が遠い目をした。
爽やかな風が4人の寛衣をゆらし、
青い海はビル内の空間を超えてどこまでも続いているように、
緩やかにカーブした水平線を描いている。
「時刻です」
4人が緊張したように立ち上がった。
彼らの耳に超高温が響く。
やがてそれは柔らかな音群となって、無限に重合していく。
さんさんと降り注ぐ陽の光の中に、
半透明の薄絹を纏った、長い黒髪の女性の姿が浮かび上がった。
(出発3~4へ続く)