NO 234

出発

明るい爽やかな陽射しの中に4人の男が円卓を囲んでいる。
(フィリピン沖の地震は我々の手によるものではない)
(”破の舞”の最終段階に誘発されたものではないのか)
(それにしては規模が大きすぎる。フィリピン沖だけというのも妙だ)
ザー、ザーと繰り返し音がしている。
4人のすぐそばまで波が打ち寄せているのだ。
はるかに続く白い砂浜の向こうは、パールグリーンの浅海である。
(今までこんなことはなかったな)
(ウム、何か気になる)

「外部汚染地域洗浄処理順調」
コンピュータの声がする。
ここはフイージー大陸塊、
1メガトン級の核爆発にも耐えた帝国政府中央ビルである。
4人がいるのは本当の海岸ではない。
このビル60階の枢機卿室である。
外は放射線汚染によって人間の住めるような環境ではない。
だが、彼らはそんなことをまったく意に介した風もなく、
自然そのままの日光浴を楽しんでいる。
帝国の科学力は、すでに汚染地域を洗浄しつつあり、
内部に至ってはいっさい汚染の影響を受けていない。

「”破の舞”進行中。帝国の傘下国134」
(他の国も、事実上何も出来る状態ではあるまい)
「計画による死亡者2億3900万」
コンピュータが無感動に告げる。
(まあ、こんなものだろう)
(10億と言ったのは、あなたがたの総大使館ですよ)
(彼はちょっと過激なところがあったからな。
だがもう、この世にはいない・・・)
アジア総大使館の「白のお方」、枢機卿NO1の思いがゆれる。
(GOOの急襲でヴァイオレットクラスだけでも5名をうしないました)
(そのことだが、今回のフィリピン沖地震と、
それに続く奇怪な海鳴りも、彼らの手によるものではないのか)
(いくら彼らでも、そこまではできまい)
人種も言葉もまったく異なるはずの4人だが、
意志の疎通にことかくことはない。

遠い海鳴りが聴こえる。
コンピュータの発生装置が呼応する。
(発信源はビチアス海淵だそうだが・・・)
(うむ、今頃は我々の誘導で、日本政府が探査に動いているはずだ)
白のお方が遠い目をした。
爽やかな風が4人の寛衣をゆらし、
青い海はビル内の空間を超えてどこまでも続いているように、
緩やかにカーブした水平線を描いている。

「時刻です」
4人が緊張したように立ち上がった。
彼らの耳に超高温が響く。
やがてそれは柔らかな音群となって、無限に重合していく。
さんさんと降り注ぐ陽の光の中に、
半透明の薄絹を纏った、長い黒髪の女性の姿が浮かび上がった。

(出発3~4へ続く)

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