出発(たびだち)
3
「女王陛下!」
4人が感動の声をあげた。
青い海の上空に浮かんでいる女性の像はたちまち拡大し、
今や空全体に広がっていた。
それは天の羽衣教団18階の壁に描かれていた羽衣そのままの、
天女の姿にほかならなかった。
(・・・・・・・)
女王の清らかな波動が伝わった。
「”急の舞”でしょうか」
(・・・・・)
「どうしてもだめなのでしょうか」
(・・・・・)
「はい、羽衣をラグランジェ点まで移動させます」
(・・・・・)
「お待ちください!もう一度ムーを、ネオムーを・・・」
4人の声に必死の思いがこもる。
だが彼らの前にさえ初めて出現した女王の姿は、
重合する音群の彼方へと溶け込んでいく。
上空には色とりどりのきらめく光と、音の融合だけが残っていた。
また海鳴りがする。
4
その同じ音は東京のアジア総大使館にも響いていた。
「”破の舞”進行中。雌阿寒岳、駒ヶ岳、浅間山、三原山、
雲仙、阿蘇山、桜島活動中」
コンピュータの声がする。
紫色の霧の中に、
三原山と浅間山の噴煙にはさまれた
陰鬱な東京の街並みが映し出されている。
(今、中央政府より指令がはいった。
やはり”急の舞”は実施される。羽衣は移動を開始したそうだ)
NO1が断定した。
(でも”破の舞”は成功しているんでしょう)
(うむ、すでに帝国の傘下に入った国は140を超え、
約2億4000万の人口減となっている)
(順調じゃないの、なのにどうして・・・)
(GOOが関係していますね)
阿井が静かに言った。
このビルでNO4の消滅と同時に、
新生火山地震研究所と六星海洋気象研究所の所長をはじめ、
ブルークラス4人が廃人となっている。
(ほんとうに一瞬のことだったわ)
NO3が岡田の出現と、No4の消滅を再現させて、
恐怖と欲情の入り交じった雰囲気をふりまいた。
遠い海鳴りの音がコンピュータの発生装置をふるわせる。
(ところでさっき”白のお方”から確認されたんだが、
ビチアス海淵の調査はどうなっている)
(太田黒に命じて例の”しんかい6500”を稼働させることになっていますわ。
今頃はもう現地でしょう)
NO4の消滅の後、彼の仕事を引き継いだNO3が答えた。
目の前の三原山が音のない火柱を噴き上げる。
(所長の後任は見つかりましたか)
(ええ、新生火山地震研究所のほうはブルークラスに専門家がいましたが、
・・・・・六星のほうは、この際つぶしてしまおうと考えていますわ)
この妖艶な女は、いつものように、あっさりと言ってのけた。
(出発5~7へ続く)