NO 237

出発たびだち)

7

「先生、すべて順調です。予定どうり、この海台にそって下降します」
投光器が
海台の縁から30度ほどの斜面になって落ち込んでいる
空間の上部を捉えた。
この下は、まだ誰も到達したことのない未知の深淵である。

「深度3000」
(そうだ、この先まだ7000メートル以上も下へと、海が続いているのだ)
曲はあらためて海の深さを思った。
それは学者として考察していることとは異なり、
人間としての、自然に対する畏怖の念であった。

「深度4000」
急斜面はなくなり、なだらかに下る海底をさらに下降していく。

「この音は一つのものではありません。
たくさんの音波の融合したもののようです」
「おや、急に間隔が開いてきました」
白戸が進路に目をやりながら言った。
小田桐が母船連絡用の通話器にむかう。
「しんかい=よこすか。どうも変です。音波発信の間隔が長すぎます。
さっきからソナーに反応していません」
「よこすか=しんかい。たった今各国の観測網に反応がありました。
発信源が移動したもようです」 
「しんかい=よこすか。発信源を知らせよ」
「よこすか=しんかい。しばらく待ってください」
曲は妙な気がした。
発信源の移動とは何としたことだろう。
「よこすか=しんかい。発信源確定。ビチアスⅡ海淵、トンガ海溝です」 

「発信源が次々と移動している」 
ネオムー帝国中央政府ビル60階の枢機卿室で、
噴火を繰り返す世界中の火山の映像を見ながら、一人が言った。
発信源はビチアスⅡ海淵から、ビチアスⅢ海淵へと移動し、
その後太平洋の至る所を飛び回り始めた。
それらはけっして同時ではないが、
数分の間に、何千キロもの距離をランダムに移動した。
(おかしい・・・)
何事にも動じない帝国枢機卿の頭に不安がよぎった。
(”しんかい6500”はどうした)
(今頃はビチアス海淵上部に潜っているはずだが)

(出発9~10へ続く)                        

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