NO 239

出発(たびだち)

11

オーストラリアに飛んでいる弥次喜多コンビや、
カメラマンの良ちゃんをはじめ、
ほとんど空席になっている編集部にも、
テレビを通じて情報が入ってくる。
「曲先生、大丈夫かしら」
恂子の横で、美雪が不安そうに独りごちた。
テレビニュースの後から、一定の間隔をおいて、
海鳴りが聴こえる。

恂子は、その音を聴く度に、身体がうずいた。
最初はかすかであったが、
今やはっきりと、身体が音に反応しているのが分かった。
(GOOに血だ)
岡田の思念が入ってくる。
(俺にも感じる。大小の差はあっても、
GOOの血をひくものすべてに、
何らかの影響を与えているにちがいない)
(私には”来い”と言っているように聞こえますわ)
(恂子、我々は行かねばならんぞ)
岡田がゆらりと立ち上がった。
「またモカね」
小声で言った美雪が、岡田が消えた後、
すぐ立ち上がった恂子を見て、声をかけた。
「先輩、取材ですか。わたしも・・・」
途中で言葉を飲んだ。
いつも優しい先輩が、びっくりするほどきびしい顔をしていた。

モカに行くと由美が待っていたようにシャッターを下ろした。
恂子は岡田と向かい合って、彼の定席に座る。
「行くぞ」
声と同時に、4人がけの席を含む
一坪ほどの床面が急速に下に沈んでいった。

12

同じ頃、
各国の観測ネットワークに組み込まれて
太平洋に潜行中の米ソ原潜は、
移動する音の発信源から、
無数の岩石が射出されているのをキャッチしていた。
ほとんどが海面下1000メートルほどで沈んでいったが、
勢力は徐々に強まっていた。
発信源上にいた原潜は、危険を感じて次々と浮上を始めた。
一時はネオムー帝国の攻撃だとして、
魚雷の使用が検討されたが、それはむしろ自殺行為と知り、
回避作戦にはいった。
しかし彼らの逃げ道はなかった。
太平洋中、至る所から、次々と襲ってきた岩石は、
とうとう海面から300メートルほど上空にまで
吹き上がったのである。

(出発13~14へ続く)

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