出発(たびだち)
11
オーストラリアに飛んでいる弥次喜多コンビや、
カメラマンの良ちゃんをはじめ、
ほとんど空席になっている編集部にも、
テレビを通じて情報が入ってくる。
「曲先生、大丈夫かしら」
恂子の横で、美雪が不安そうに独りごちた。
テレビニュースの後から、一定の間隔をおいて、
海鳴りが聴こえる。
恂子は、その音を聴く度に、身体がうずいた。
最初はかすかであったが、
今やはっきりと、身体が音に反応しているのが分かった。
(GOOに血だ)
岡田の思念が入ってくる。
(俺にも感じる。大小の差はあっても、
GOOの血をひくものすべてに、
何らかの影響を与えているにちがいない)
(私には”来い”と言っているように聞こえますわ)
(恂子、我々は行かねばならんぞ)
岡田がゆらりと立ち上がった。
「またモカね」
小声で言った美雪が、岡田が消えた後、
すぐ立ち上がった恂子を見て、声をかけた。
「先輩、取材ですか。わたしも・・・」
途中で言葉を飲んだ。
いつも優しい先輩が、びっくりするほどきびしい顔をしていた。
モカに行くと由美が待っていたようにシャッターを下ろした。
恂子は岡田と向かい合って、彼の定席に座る。
「行くぞ」
声と同時に、4人がけの席を含む
一坪ほどの床面が急速に下に沈んでいった。
12
同じ頃、
各国の観測ネットワークに組み込まれて
太平洋に潜行中の米ソ原潜は、
移動する音の発信源から、
無数の岩石が射出されているのをキャッチしていた。
ほとんどが海面下1000メートルほどで沈んでいったが、
勢力は徐々に強まっていた。
発信源上にいた原潜は、危険を感じて次々と浮上を始めた。
一時はネオムー帝国の攻撃だとして、
魚雷の使用が検討されたが、それはむしろ自殺行為と知り、
回避作戦にはいった。
しかし彼らの逃げ道はなかった。
太平洋中、至る所から、次々と襲ってきた岩石は、
とうとう海面から300メートルほど上空にまで
吹き上がったのである。
(出発13~14へ続く)