NO 241

出発

15

周りの海原が一変した。
香しい匂いが漂い、一面に花が咲き乱れている。
蝶が飛び交い、遠くから、牧童の吹く笛の音がきこえてくる。

「油断するな!」
岡田の叱咤が飛んだ時には、
GOOのメンバーが岩石ごと氷結していた。
ヴァイオレットクラスの攻撃である。
さらに何人かが、氷塊と化した。

恂子はこの場にいる自分が
どうして生きていられるのか不思議であった。
レーザーの高熱ばかりではなく、
絶対零度に近い超低温にも耐えているのだ。
気がつくと足が岩の中に食い込んでいて、
身体が動かない。

メンバーの数は半減している。
だが、その時にはもう、帝国のヴァイオレットクラスも消滅していた。
岡田が東京アジア総大使館において、
既に同種の攻撃を経験していたことが幸いしたのである。
一瞬それを察知した岡田は、敵の背後に実体化して、
彼らを超空間に葬り去ったのである。

16

中央政府ビルのテラスに、4人の枢機卿が出現した。
彼らはじっと岡田たちを見つめる。
岡田と、サー・ウリリアムズの顔から脂汗がにじみ出る。
今二人は、自分の身体の中で
限りなく膨れあがろうとする心臓と戦っているのだ。
後方にいた老人が静かに歩み寄り、二人の肩に手を置いた。
苦痛が遠のく。
間髪を入れず、二人ともビルのテラスに立っていた。
(すこしでも触れることが出来れば勝てるかもしれない)
岡田は念じた。
だが、すぐに、自分の考えが甘かったことに気づいた。
岡田たちの前方に阿井の姿が出現したのである。
阿井は特に何をしていると言うわけではない。
だが、彼の前には不可視の”時の川”が流れていた。
阿井の姿は存在感に乏しく、
事実、そこにいるが、そこにいないのである。
岡田とウイリアムズが、いかにテレポートしても、
”時の川”に触れた途端に時間が元に戻っていまう。
それは何度繰り返しても同じであった。

17

そして、又岡田たちの心臓が鷲づかみにされる。
二人はその防御にエネルギーを使うことで、
自分たちの能力を封じられてしまった。

ネオムーの二人の枢機卿が、
GOOのメンバーがいる、大岩石の上にテレポートした。
老人、グレートロンリー伯爵は、
ゆっくりと両腕を広げ、他の者たちを守る姿勢をとる。
睨み合いが続いた。
二人の枢機卿の力と伯爵の力が、
テラス上の3対2の力と同様拮抗して、
目にみえない火花を散らしていた。

恂子たち他のメンバーは、黙って見守るしかない。
力の差が歴然としていて、
身体を動かすことさへ出来ないのである。

海が吠える、波が逆巻く。

大岩石をふくむ空間が徐々にゆがみ始めた。
「ウーム」
グレートロンリー伯爵が、顔面を蒼白にして膝をついた。
83歳という高齢が、ねじ曲がった空間に、
即時に対応し切れなかったのである。
「降伏せよ、今なら命に別状はない」
枢機卿NO1の唇が動いた。
伯爵はゆっくりと首を横に振る。
瞬時に彼の身体は四散していた。

(出発18~19へ続く)

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