NO 242

出発たびだち)

18

槙原恂子は、近づいてくる2人の枢機卿を見ても、
どうすることもできなかった。
どういうわけか、両足がしっかりと岩に食い込んで離れない。
だが、大きく見開いた恂子の瞳は緑色をおびて限りなく澄み、
気力は決して萎えてはいない、
それどころか、
岩に食い込んだ足の先から、エネルギーが沸々と沸き上がってくる。
枢機卿の一人が両腕を上げる。
一気にGOOの全員を葬ろうという構えだ。
(阿井さん!)
恂子の心が叫んだ。
一瞬阿井の”時の川”に乱れが生じた。
岡田が翔ぶ、ウイリアムズが翔ぶ。
それを追ってテラスにいた二人の枢機卿が翔ぶ。
阿井を含めた5人の姿は超空間に消えた。
同時に岩上の枢機卿が放った殺人霊波が恂子たちを包む。
海底下600キロで”羽衣”を移動させた、彼らの念動波に、
すべては粉々になって飛び散った。

19

刹那・・・。
轟音とともにに眼前のフェニックス陸塊が火柱を噴き上げた。
背後にも危険を感じて、上空へテレポートした二人の枢機卿は、
放射能汚染をようやくぬぐい去り、
緑の楽園になるはずのフィージー大陸塊が、
あちこちから火柱を噴き上げるのは目のあたりにして、思わず叫んだ。
「女王陛下!」
岡田たちを追って超空間に消えた、残り二人の枢機卿もまた、
北方3000キロの上空に実体化して、
ワシントン陸塊と、マーシャル陸塊が火を噴くのを目にした。
それに呼応して、すべての陸塊が同じように火を噴き上げ、
ネオムー帝国は一転、火の国となって鳴動した。

4人の枢機卿はいったん中央政府ビルに戻った。
「第7,第8、16、23、37、40ガスチェンバー破損」
コンピュータが淡々と恐ろしい事実を伝える。
「第9,17,24,25,38、39ガスチェンバー破損、
自動修復システム作動せず」
ビルが大きく揺れる。

(・・・・・・・)
どこからともなく伝わって来た温かい波動に4人の顔が輝いた。
「女王陛下!・・・」
(・・・・・)
「はい、離脱します」
四方へ飛んだ彼らは、
それぞれの大使館ビルに向けて超空間に入る一瞬に、
ゆっくりと傾き、大きな地殻の割れ目に倒れ込んでいく、
ネオムー帝国中央政府ビルの影を見た。

世界中の人たちが衛星放送による同じ映像に釘付けになっていた。
大きな蝶が燃えていた。
体表から火を噴き、翅が黒煙に包まれて燃えていた。
世界の平和と人類の幸福を求めて
空間を超え、時間を超えて成立したネオムー帝国が
・・・今燃えていた。

(出発20~21へ続く)

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