出発(たびだち)
18
槙原恂子は、近づいてくる2人の枢機卿を見ても、
どうすることもできなかった。
どういうわけか、両足がしっかりと岩に食い込んで離れない。
だが、大きく見開いた恂子の瞳は緑色をおびて限りなく澄み、
気力は決して萎えてはいない、
それどころか、
岩に食い込んだ足の先から、エネルギーが沸々と沸き上がってくる。
枢機卿の一人が両腕を上げる。
一気にGOOの全員を葬ろうという構えだ。
(阿井さん!)
恂子の心が叫んだ。
一瞬阿井の”時の川”に乱れが生じた。
岡田が翔ぶ、ウイリアムズが翔ぶ。
それを追ってテラスにいた二人の枢機卿が翔ぶ。
阿井を含めた5人の姿は超空間に消えた。
同時に岩上の枢機卿が放った殺人霊波が恂子たちを包む。
海底下600キロで”羽衣”を移動させた、彼らの念動波に、
すべては粉々になって飛び散った。
19
刹那・・・。
轟音とともにに眼前のフェニックス陸塊が火柱を噴き上げた。
背後にも危険を感じて、上空へテレポートした二人の枢機卿は、
放射能汚染をようやくぬぐい去り、
緑の楽園になるはずのフィージー大陸塊が、
あちこちから火柱を噴き上げるのは目のあたりにして、思わず叫んだ。
「女王陛下!」
岡田たちを追って超空間に消えた、残り二人の枢機卿もまた、
北方3000キロの上空に実体化して、
ワシントン陸塊と、マーシャル陸塊が火を噴くのを目にした。
それに呼応して、すべての陸塊が同じように火を噴き上げ、
ネオムー帝国は一転、火の国となって鳴動した。
4人の枢機卿はいったん中央政府ビルに戻った。
「第7,第8、16、23、37、40ガスチェンバー破損」
コンピュータが淡々と恐ろしい事実を伝える。
「第9,17,24,25,38、39ガスチェンバー破損、
自動修復システム作動せず」
ビルが大きく揺れる。
(・・・・・・・)
どこからともなく伝わって来た温かい波動に4人の顔が輝いた。
「女王陛下!・・・」
(・・・・・)
「はい、離脱します」
四方へ飛んだ彼らは、
それぞれの大使館ビルに向けて超空間に入る一瞬に、
ゆっくりと傾き、大きな地殻の割れ目に倒れ込んでいく、
ネオムー帝国中央政府ビルの影を見た。
世界中の人たちが衛星放送による同じ映像に釘付けになっていた。
大きな蝶が燃えていた。
体表から火を噴き、翅が黒煙に包まれて燃えていた。
世界の平和と人類の幸福を求めて
空間を超え、時間を超えて成立したネオムー帝国が
・・・今燃えていた。
(出発20~21へ続く)