NO 244

出発(たびだち)

22

ネオムー帝国の爆発は3日3晩続き、陸塊は次々と崩れていった。
津波が放射状に広がって、カリフォルニア半島を水没させ、
パナマにおいて、太平洋と大西洋が手をつないだ。
アマゾン川とミシシッピ川は、それぞれ河口から1000キロと、
400キロにおよぶ、楕円形の塩湖を形成した。
ベーリング海峡から流れ込んだ大量の暖水は、
北極海で、渦を巻き、氷水が逆流した。
一方南極ロス海の棚氷は大きく崩れ、
南米南端をはじめとする海域には、
大氷塊が浮遊して、あちこちの港に打ち寄せていた。
日本では東京をはじめ、太平洋側の大都市が、
なすすべもなく津波に蹂躙され、
中国、東南アジア、オーストラリアなどでも同様であった。

今、ムーは再び海に沈もうとしていた。
阿井真舜は
中央太平洋に出現した彼の空間”時の部屋”の中にいる。
彼は静かに、
自分の計画したネオムー帝国の崩壊を見つめながら
考えていた。
アマランサスで恂子の身体から熱いマグマを観じた時、
阿井は自分たち二人の未来を垣間見ていた。
マグマによって築き上げられたものが、
マグマによって、滅びるのに、何の不思議があろう。
ただ一人、大きく時を翔ぶことの出来る彼にとっては、
それも又一時の夢にすぎないことを
予感していたのかも知れない。
部屋の周囲、全体の空間には荒れ狂う海水のなかに、
今、正に飲み込まれようとしている、ネオムー帝国の陸塊群が、
最後のあがきのように、
上空の月に向かって咆哮する姿が展開されていた。

すべては、悠久の時の中に、埋没して行くのであろうか。

23

阿井は片隅の寝台の方へ歩み寄った。
そこには、静かに目を閉じた槙原恂子の姿があった。
彼女は地下から受けたGOOのエネルギーによって、
枢機卿の攻撃に耐えたのである。
わずか百万分の1秒・・・。
だが、阿井にとっては十分な時間であった。
彼は岡田たちを押さえていた”時の川”をゆがませ、
”時の部屋”を創造して、恂子をそこに封じ込めたのである。
そして彼の意図とは別に、”時の川”の一瞬のゆがみが、
間接的に、岡田とサー・ウイリアムズを
救う結果にもなったのである。

(やはり、そういう流れになっていたのだ)
阿井は身をかがめ、そっと恂子に口づけした。
1秒、2秒、3秒・・・。
恂子の頬に血の気がさし、
阿井が離した唇から、微かな吐息がもれた。
恂子は目を開いて、ふと微笑む。
どうして生きているのか、どうしてここににいるのか、
と聞くこともない。
まるで当然の成り行きのように、
信頼しきった澄んだ瞳が、阿井を見上げている。
そのままじっと見つめ合う・・・。

(出発24~25へ続く)

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