NO 250

エピローグ

2ヶ月後、再び統一がなったアメリカ合衆国をはじめ、
世界の国々は、ようやくネオムー帝国の呪縛から解放されていた。
この一年のうちに3億人が死亡し、
中央太平洋の島々や、オーストラリア、パプアニューギニア、
インドネシアなどの地形は大きく変わってしまった。
カリフォルニァ半島とパナマは水没から復活したが、
ミシシッピ川とアマゾン川では、水が引いた後でも、
多くの塩湖が取り残され、長江や黄河でも同様であった。

ずっと春の来なかった東京は、5月末に梅と桜が同時開花したのを機に、
一気に夏に向かって進んでいった。
ネオムーアジア総大使館ビルの飛び立った跡には、
直径150メートルにも及ぶ大きな窪地が、
まるで切り取られたような、鋭角的斜面を見せていた。
まわりには、当局によって柵が立てられ、係官がついているが、
時と共に人々が集まるようになり、
7月になった現在では、ちょっとした東京の新名所になっていた。

「ケープタウンやリスボンに残されたビルにも、
観光客がつめかけているそうですよ」
小山が言った。
「そういえば、良ちゃんがそっちに廻っているようだな」
大川がカメラを向けるまねをする。
オーストラリアから太平洋の島々を巡り、
リスボンとケープタウンに向かったはずの藤守良は、
ネオムー帝国関係の撮影を最後に、
社を辞めてフリーになるのだと聞いていた。
「なんで辞める気になったのでしょうね」
「そりゃーお前、いろいろあるだろうよ」
「そういえば、憑かれたように撮りまくっていましたね」
弥次喜多コンビの会話が続いている。

槙原恂子は、ネオムー帝国の独立宣言以来、
良ちゃんとは、ほとんど会っていない。
この若い優秀なカメラマンが、
いつも自分につかず離れず協力し、援護してくれていたことを思い出す。
(彼はお前に心をよせていた)
(ええ・・・)
他の者には聴き取れない、岡田と恂子の交信である。
「良ちゃんは、きっとフリーで成功するわ」
恂子は、口の中で、小さくささやいた。

ネオムー帝国の特集号は、藤守良から送ってくるはずの、
リスボンとケープタウンの写真を組み入れて、
コメントを加えれば完成というところまでこぎつけ、
編集部は、次に”予言の刻”の復活を検討していた。
このイベントはその性格上、
1年見送るわけにはいかないという論が大半を占めている。
臨時体制を組んでいた、スポーツ娯楽担当も、本来の仕事に戻った。
開幕を3ヶ月遅らせたプロ野球をはじめ、
各種のスポーツが、再び人々の目を楽しませるようになっていた。
「やはり雀聖戦も、決勝だけ残しておくわけにはいきませんよ」
スポーツ娯楽担当デスクの斉藤が、岡田に進言している。
電話が鳴った。
斉藤がとって、岡田に渡す。
岡田は短くうなずいて、すぐに受話器を置く。
「太田黒が失脚した」
岡田はタバコに火をつけながら、独り言のように言った。

(エピローグ2へ続く)

 

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