NO153

ムーの幻影今年度は拙著「ムーの幻影」を掲載します。

これは1987年12月から1988年5月まで
の半年間、地元の陸奥新報紙に連載し、
その後出版されたSF小説です。

 覚醒のときは
 ムー帝国野望
 大いなる者たちが立ちはだかるとき
 人類未来しいページをひらく

(多少手直しをし、随時更新します)

目次

  1,承前
  2,プロローグ
  3、謎の教団
  4,出逢い
  5,兆候
  6,覚醒
  7,序破急計画
  8,復活
  9、戦い
 10、出発(たびだち)
 11,エピローグ

1,承前

 1

大地が鳴動した。

緑の沃野に亀裂が走り、それに沿って次々と火柱が上がった。
近くの内海から水路を通じて逆流してきた海水が裂け目になだれ込み、
瞬間に沸騰して水蒸気を吹き上げた。
島々を結んでいた石製の橋は引きちぎられ、
整然とした街並みは、たちまち亀裂に飲み込まれた。
黒煙は大空に広がり、急速に陽光が奪われていった。

水路に沿った商店街に集まっていた人々の大半は、
声をあげる間もなく地底に落下した。
やっとの思いで逃れた人々は、
髪や衣服を焼かれながら、
高台にある壮麗な神殿にたどりつこうと必死に走った。

神殿はすでに、あちこちから集まってきた何万という群衆に取り囲まれていた。
人々はみな、両腕を高く頭上に突き出して口々に叫んだ。
「ラ・ムー、ラ・ムー!」

いくばくかの時が流れ、
神殿の堅牢な石壁の上に、白い寛衣を纏った男が立った。
男は叫び続ける群衆に比べると桁違いに大きく、
身長は優に2メートル50は超えているであろう。
がっしりした上半身の量感が遠くからでもはっきりとわかった。

「ラ・ムー、ラ・ムー!」
群衆の叫び声は、いまやその頂点に達していた。
男はしばらく大群衆を見下ろしていたが、
つと一歩前に出ると、片手を上げて叫びを制した。

「これはすでに予言されていたはずだ。もう誰にも止めることはできないのだ」

その声は、吹き上げる火柱の轟音のなかにもかかわらず、
静まりかえった群衆の頭上に荘厳に響きわたった。
だが叫びが静まったのはその一瞬だけであった。
再びわき上がったラ・ムーコールは、
前にも増して大きく激しく、神殿の壁にこだました。

その言霊に呼ばれたかのように、神殿の中央部からも火柱が上がった。
栄華を極めた壮麗な石造建築は、
高い壁の上に立つ、白い寛衣の男と共に、ゆっくりと崩れ落ちていった。
「ラ・ムー、ラ・ムー」
群衆の大合唱も無数に吹き上げる火柱の中に消えていった。

 2

(なぜ邪魔をなさるのですか)
清冽な思念が走った。
(お前はここに、自分たちの星にとって理想の世界を創ろうとした・・・)
太い荒縄のようないらえがあった。
(だがこのソル系第3惑星では、それが受け入れられなかったのだ)

(それならば、今度は人類と共にある繁栄を意図いたしましょう)
(理想というものは、それが達成されようとしたとき、もはや理想ではなくなる。
お前たちは自分の星で、何度もそれを繰り返してきたではないか)
(だからこそこうして、新天地を求めてやってきたのです)
(ならばやってみるがいい。だが、お前がこの第3惑星にいるということは、
それなりの意味があるのだということを、忘いれてはならない)
(私の存在理由ですか・・・)
清らかな波動が一瞬揺らいだ。

(教えてください)
(それは自分で悟らねばならないのだ)
(どうしても理想が達成できないというのであれば、私は故郷へ帰ろうと思います)
(お前の存在がこの惑星上で意味があるとすれば・・・
お前の意志にかかわらず帰ることはできまい。
やがてここもお前たちの星と同様に、進化の袋小路に入ろうとしているのだ)

白光がほとばしった。
それは大気圏で6体に分割され、いま正に崩れ落ちんとする太平洋中央大陸に、
とどめをさすかのように、火の玉となって激突した。
白光のすさまじさに、すべては光を失った。
陸地は砕け散り逆巻く怒濤のなかに消えていった。

(返してください・・・)
はじめて女性の様相を具現した思念が、輝く月面に反射した。
(羽衣を返してください・・・)
幾重にも織り重ねられた和音が地球へと向かい、
むなしく真空のなかに吸収されていった。

NO154に続く・・・

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