NO 224

戦い

21

3月にはいっても、いっこうに春の兆しを感じさせない日々が続き、
延期が噂されていた国立大学の入試が予定どうり行われている頃、
恂子たちは、モカに集まっていた。

「アメリカのデモは拡大するばかりだ」
「噂じゃー、帝国に対して東部の反対派と、
西部の賛成派が真っ二つに分かれているってことだぜ」
世界中を廻って、写真を撮りまくって来た藤守良が、
日焼けした顔で言った。
「うむ、国内で東西戦争でも起こしそうなムードだそうだ」
「しかし、アメリカ政府は反対の声明を発表しましたよ」
「それが、例の世界理想郷宣言以来、どうも調子がおかしいらしい」
「あたしゃ、帝国の独立にも施策にも賛成だね。
日本だって、今じゃあ国中がそうじゃねェのか」
大川が大声で言い、ママ、ナポリタンちょうだいと、小声で付け加える。
「まあ、それはそれとして、月刊GOOとしては、
あれだけの大陸塊を隆起させた原因を探っていかなければならない。
横須賀の海洋科学技術センターでは、プレートテクトニクスなど、
現在の理論では、どうしても解明できないと言っているんだ」
デスクの山崎が進行を促す。
「六星海洋気象研究所の曲部長は、何か言っていませんでしたか」
小山が恂子の顔を探る。
「何らかの理由で、急速に海底が持ち上がり、
それによって沈み込んだ所へ
プレートやその他の構造物が流れ込んだのだろうと言っていましたが」 
「何らかの理由ネェ」
小山が繰り返す。

「おまちどおさま」
由美が大川の前にナポリタンを運んで来る。
「ヘイヘイどうもどうも」
「なんだか難しそうなお話のようですわね」
由美はにこにこしながら去って行く。

「それにもう一つ、イギリスBBCのチャーター機が、
上空で軽くはね飛ばされたというのはどうだ」
山崎が続ける。
「不可視のバリアーですね」
「そうだ、そこで世界理想郷宣言の内容を探るというテーマに、
今の二つの謎をからめて進めていこうじゃないか」
「賛成!」
大川がナポリタンをすすりながら言った。

22

同じ頃、帝国の周辺50海里ラインでは、
英、仏及びニュージーランドの艦隊が一列にならんで、
デモンストレーションに入っていた。
帝国内に点在する、彼らが領土と主張する島々への入港を拒否され、
グァムとウエリントンに集結していた艦隊は、
島民の救済という名目で、行動に出たのである。
しかし、帝国側は、あくまでも住民は、
その島々とともに帝国の傘下に入ったとして譲らず、
もし、領海内に入れば敵と見なすと通告してきた。

かくて翌3月6日、業をにやしたニュージーランドの巡洋艦が、
ネオムー帝国の領海に向けて威嚇射撃を敢行したのである。
ニュージーランド側は、これだけ、英、仏の艦隊がそろっている中では、
帝国も直接行動に出ることはあるまいと、高をくくっていた。
だが、突然真上から降下してきたVTOLが
レーダーに捉えられた時には、帝国のレーザー砲らしい熱戦が、
砲撃した巡洋艦の艦橋を、正確にないでいた。
たちまち急上昇したVTOLは、
ニュージーランド側の対空砲火が開始された時には、
すでに、射程距離を脱していたのである。

この事実によって、ネオムー帝国は戦いも辞さないということが確認され、
各国は一時沈黙した。
ニュージーランドは国家に対して、
人的、物質的に多大な損害を与えたとして、国連に提訴するともに、
その報復として、領海内の小島に艦砲射撃を行ったのである。

23

4日間、小競り合いが続いた。
世界理想郷宣言に賛同する国々は、
外交ルートを通じてニュージーランドを非難し、
それをバックアップする、英仏、ひいては米ソへの非難が広がっていった。
国連は両国の仲介を申し出、
最終的にはネオムー帝国の独立承認を各国に説得するという、
譲歩案を示したにもかかわらず、帝国側は一切耳を傾けなかった。

一方、毎日のようにデモや暴動が続いているアメリカ合衆国では、
ついにカリフォルニアなど、西部を中心に11州が合衆国から離れ、
帝国と同盟を結びたいという意向を明らかにし、
ハワイを含めた12州が、西アメリカ合衆国として独立し、
首都をロサンゼルスにおくと宣言した。
アメリカ政府としては、ただちにこれを認めたわけではなかったが、
武力による解決の決心もつかないまま、
形の上では、アメリカは東西に分裂した。

大統領は態度を硬化させ、
ネオムー帝国のすべての施策について、
非承認を全世界に呼びかけた。
NATOの諸国は即日賛同の意を表明し、
どのような工作が行われたのか、ソ連もそれに加わった。
東欧共産圏が追随するに至って、
事実上崩壊状態にあった国連を、ネオムー帝国に対抗する機関として、
新たな形で復活させ、
本部を引き続きニューヨークに置くことに決定したのである。

世界はこの国連側と、南北アメリカ太平洋岸、中国を除くアジア、
そしてアフリカに至る同盟国を有する帝国側の
2大勢力に色分けされていった。

(戦い24~25へ続く)

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